銭湯『杜の湯』～雪乃先生２時間足止め大作戦｜リアクション

銭湯『杜の湯』～雪乃先生２時間足止め大作戦

●ちょっとした騒ぎ

　一方、女湯では島岡先生がみんなと話をしていた。しかし、話は尽きなくとも湯船にずっと浸かっているのは限界がある。
　先生が湯船から立ち上がって出口へ向かう。

「あれ……島岡先生、そろそろ出るんですか？」

　そう声を掛けたのは夏朝だった。その声は刀にも届いた。なんとかして先生が女湯から出るのを阻止しなくては。
　そう、あくまで正当（？）な理由である。

（女性の艶姿を記憶のメモリアルに残せるんだぜやったぜ！　いざ行かん！）

　刀は男湯と女湯の仕切りから身を乗り出した。その直後、女湯から黄色い悲鳴が聞こえた。
　そしてすぐに刀は女湯にいた人々の視線を集めた。その場がざわつき、ちょっとした騒ぎになりそうな気配だ。
　先生もどうしたらいいか分からず立ち止まっている。夏朝はすぐに先生の前に立って庇いつつ、出口への道を自然に塞ぐ。

「先生は湯船に肩まで浸かって待っててください……なんとかします！」

　先生はおどおどしつつも湯船に戻った。夏朝をはじめ、女性陣が近場のものを刀に投げ始める。
　丸美はあまりに急な展開に理解が追いつかず、とりあえず先生のそばにいることを心がけた。
　刀は体勢が半端なので、避けるには限界がある。しかし簡単に落ちたら時間稼ぎにならない。
　どうにかその状態を維持しようと力を振り絞る。防戦一方のなか、ついにおでこめがけて鋭い一撃が命中する。
　その威力に思わず上体がのけぞり、仕切りから後ろ向きに男湯へ落下していった。

　刀は頭から落ちて、あわや大惨事かと思われたが、修がなんとか支えたおかげでそれは免れた。
　そして女湯からは安堵と怒りの声が聞こえた。そのなかで、丸美はひときわ困惑していた。

「もう……なにがなんだか……」

　丸美はそう呟きながら湯船に沈んでいきそうになったところを、周りの人たちに支えてもらい脱衣室へ。
　完全にのぼせてしまい、全身も真っ赤。意識はあるが、頭もぼーっとしている。先生が心配そうな顔で横たわる丸美の看病をしている。その甲斐もあって、しばらくすると自分で歩けるほどに回復した。周りに迷惑を掛けたかもしれないが、結果的に時間稼ぎになったので怪我の功名だろう。

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