【もっともっと、強く！】

「ブランドをアピールするの？　ふーん」
　旧市街の路地を歩きつつ、陸堂 源次はのんびり。つぶやきます。
「確かに、ダイバーはかっこいいけど。メーカーさんについては良く知らなかったなぁ」
　トライアングルステージ、開幕！　けれど子どもたちが張り切ってバトルをしたり、振り付けを考えたりしているなか、源次の反応はやけにタンパクに見えました。
　カプセルギアにおけるパーツブランドについては、みんなにはもうおなじみでありながら、その実態はさっぱり分からないのが現状です。実際にそういう企業があるんだとする人もいれば、カプギアの販売元である愛光堂の社内開発チームのことだと考える人もいたりして、判然としません。
　ただ、ギアマスターならおおむね、お気に入りのブランドがひとつはあったりするものです。
「アピール。アピール、アピール……ん～」
　もちろん源次だって、興味がないわけではありません。むしろその逆で、
「よし。戦って、戦って、戦って……戦いまくろう」
　まったくもって、やる気十分！　ギアバトルが楽しくて楽しくて仕方がない彼は、とことんバトルでアピールしようと考えたのでした。
　やがて道の先には、善場模型店の看板が現れます。あの下では、彼の幼なじみが待っていることでしょう。
　今日もギアバトルができる。そう思ったら、源次の足は自然と軽くなりました。



　いっぽうその頃。
「むむむー」
　源次の幼なじみこと鈴島 クミは、彼を待ちながら、なんだかむつかしいお顔を浮かべておりました。
「どうしたんだい？　なにか悩みでもあるのかい？」
　模型屋さんの店長、善場 義春さんが首をかしげて不思議そうに尋ねましたけれど、
「ぬぬぬー」
「あらら。上の空だねこりゃ」
　クミは気付きませんでした。
　彼女は今、考えに考えているのです。
「どうしたら、もっとギアバトルが強くなれるかなぁ？」
　はじめはクミに教わるばかりだった源次も、今ではすっかり強くなって、クミとも互角のバトルを繰り広げるほどになりました。それにこのところは巷にギアマスターの数も増えたようでして、源次以外にも歯ごたえのあるライバルには事欠きません。
　そんななかで、自分はどうだろう？　クミは思うのです。
　これからもっともっと、強くなっていけるかな？　今が限界だったりしないかな……いつか、ゲンジに追い抜かれちゃうかな？　なんて、ぐるぐるぐる。ああでもない、こうでもないと考えていたら、
「あ、いたいた。お待たせー」
「……ん！」
　聞き慣れたのんびり声が耳に届いたら、瞬間、悩むのはもうおしまい。お気に入りのグミを口のなかに放り込んで、ぺちんとほっぺたを叩いて気合注入！
「じゃやろっか、クミ。がんばって潮見原をアピールしようよ」
「おっけー！　アピールとかは得意じゃないけど、全力バトルをがんばろう！」
「うん。バトルしてバトルして、バトルしまくろう。あ、手加減とかいいからね？」
「もちろん本気でいくよ！」
　いつもはのほほんマイペースな幼なじみも、今日はなんだかやる気に満ちているようです。
　クミは思います。それでこそ、私のライバル！
　スマホをバッテリーとつなぐとポーチへ落とし、きゅっと身に着けたのは、グローブ型のウェアラブルデバイス。これで身軽にギアを操縦するのが、クミのスタイルなのです。

「勝負だよ、ゲンジ！」
　浮かない顔もどこへやら。すぐにも、熱いバトルが始まりました。



　ぎゃりり、と土煙を上げ駆け抜けるローラーダッシュ。
「そこだ、『カオスダイバー』っ！」
　しゅぱん。煙の尾を引いて飛ぶグレネードが地面に弾けて、吹き上げた爆炎めがけてためらいなく突っ込むと、黒煙のなかから飛び出し奇襲攻撃！
「うわ！　ゲンジ、強くなってるなー！」
「そりゃそうだよ、もう何度もバトルしてるからね」
　からくも避けた、クミのガラクタ君こと『ST93』へ追いすがり、必殺のパイルバンカー……と見せかけて、
「！　地面にバンカーを刺してターンした！？」
「フェイント、だよ！」
　意表を突く急反転からのチェインガン！
「俺もさ。少しずつ分かってきたんだよ、クミ」
　確かに彼はギアマスターとして、すこぶる成長したと言えましょう。単純な攻めばかりではなく、状況を見て、時には緩急をつけてフェイントをかけたり。武器を予想外の使い方で活かしたり。クミが驚くほどの幅広い戦い方を披露してくれました。
「俺のダイバーは、特別製じゃない。でも俺にとっては間違いなく特別で、だからダイバーは、ここまでやれるんだよ」


　クミに教わって始めたカプセルギア。初めての相棒カオスダイバーは、今ではすっかり、かけがえのないものとなったのでした。
　チェインガンを連射しながら肉薄し、今度こそ真芯へパイルバンカーを一撃！
　けれど、
「……げ、外した？」
「ふっふっふー。成長してるのは、ゲンジだけじゃないんだよ！」
　お互い手の内を知り尽くしているかと思いきや、次々に意表を突く展開が繰り広げられます。ふたりの実力は、拮抗しておりました。
　もちろん、そうです。せっかちなクミは、踏み止まってなんていられません。停滞なんてしていられません！
　パイルバンカーをかわしたガラクタ君はジャンプ一番、大上段から高周波振動式無銘刀を一閃！　ローラーダッシュで後退しつつ放たれるチェインガンの弾幕をかいくぐり、
「勝ち筋、見えた！　いくよガラクタ君！」
「避けろ、ダイバー！」
　腰だめに構えた無銘刀を横薙ぎにひと振り……は、せずに。
「あっ」
「へへー。フェイントだよ！」
　左腕のがらくたアームでカオスダイバーのチェインガンをがっちりつかみ、射線を外しながらに突きを一撃。ずどん！
　今回のバトルは、ひとまずクミのガラクタ君が勝利を収めました。



「んー、負けちゃったか。まだまだだね」
「でもいい勝負だったよ、楽しかったー！　あ、あそこで退き撃ちするの、ゲンジの癖っぽいね。あれパターンになってるから、直したほうがいいよ！」
「あ、言われて見れば確かに。ありがとクミ」
　勝負が終わればさっぱりと、ジュースで乾杯しながら反省会。おたがいのバトルを寸評し合いました。成長中の源次にはもちろん、今回は勝ったクミにももちろん隙はあり、ふたりともお互いのそんなところをよく見ています。どちらもまだまだ、強くなれそうです！
「ちょっと休憩したら、もっかいやろっか！　それとも、ほかの人ともバトルしてみる？　あ、私と組んでタッグマッチとかさ！」
「それいいね、じゃあ相手を探して……」
「そういうことなら！」
　後ろから勢い込んだ声が聞こえて振り向くと、ずらずら、ずらり！　店主の善場さんや遊びに来た子どもたちが、いつの間にやらふたりのバトルに注目していたようでして、次のお相手を買って出ようとうずうずしながら待っていたのでした。
「ここはみんなで、即興バトル大会といかないかい？　おじさんもね、君たちのすごいバトルを見ていたら、さっきからギアバトルがしたくてたまらないんだよ。ははは」
　善場さんが子どもみたいな表情を浮かべてそんなことを言うと、周りの子どもたちは口々に、いいねいいね！　やろうやろう！　と声を上げます。
「へえ、面白そう！　私も混ぜてもらおうかな？」
　ちょうどそこへやってきたのは、仙藤 蒼。バトル相手を探していたのでしょうか、なんだか楽しそう雰囲気を感じ取り、ずずいと参戦を表明！
　すっかり大人数となった彼らの熱気を前に、源次とクミはきょとんと顔を見合わせて、
「だってさ。どうする？」
「もちろん、やるに決まってるよ！　ほらほらみんな、すぐやろう早くやろう！　錆びついちゃうよー！」
「せっかちだなぁ。でも今は、俺も……そんな気分かも」
　ギアバトル大会、突発的に開催決定！
　やがて綺麗に晴れた青空の下へ、元気な声が響き渡りました。
「「いざ、勝負ー！」」