【寝子の踊子】

　『トライアングルステージ』！！
　唐突に始まったそのイベントには、寝子島中のギアマスターがざわつき始め、やがて僕はネコテック！　いいえ私は潮見原、ならば俺っちはナインナイツだぜ！　とおのおのごひいきのパーツブランドの支持を表明しつつ、盛り上がりはずんずん増していくのでありました。
「オーーーッホッホッホッホ！！」
　今日も元気に高笑い、城ヶ崎 梨々子もまたそんなギアマスターのひとりです。
「私の『プリンセスダンサー』は、愛らしいネコテック製。やはりお気に入りのブランドを応援しなくては！」
　さすが、大企業のお嬢さま。梨々子は星ヶ丘のご自宅になんともゴージャスな撮影スペースを設けて、愛機の魅せるダンスを動画に収録中でありました。
　そうなのです。トライアングルステージにおいては、ギアバトルのみならず、カプギアを使ったいかなるアピールをもブランドを盛り上げることにつながるのです。
「さあ、プリンセスダンサー！　私の……いいえ、私たちの最高のアピールを見せつけるのですわぁ！」

しゃららららん！
　純白のステージ。くるり回転しながら飛び込むプリンセスダンサーを、スポットライトがばしりと照らします。
　踊り手であるカプギアを演出する梨々子に抜かりはなく、ＢＧＭだってオペラ調の荘厳なやつをピックアップして、じゃかじゃかじゃかじゃん！
「そこでジャンプ！　くるりと回ってターン！　今ですわっ、優雅にフリルアーム展開っ！」
　ぴょんぴょんくるん、ステップ踏んで、スカートふわふわり。プリンセスダンサーは梨々子の思うまま、優雅に華麗に踊ります。
　端末を操るその手さばきはまるで、指揮者のよう！　操縦にも撮影にも熱が入り、梨々子はしばし、プリンセスダンサーの可憐かつ艶姿を演出するのに熱中するのでした。
「ふう！　これは傑作が撮れましたわね、オーッホホホホ！　さっそくMewTubeにアップロードしようかしら」
　もちろんバッチリ編集も加えて、出来上がった動画をネットの動画サイトへとアップ。
　しばらくそうして、撮影しては動画をアップロードしてアピールに励んでいたら、
「あら？　こ、この動画は……！」
　どこかのギアマスターが投稿したらしい動画がふと目に入り、その出来栄えに、梨々子の瞳はきらきらと輝きました。



「おー。これはすごいのです」
　壮大なオペラに乗せてダンスを披露するプリンセスダンサーの動画は、アップロードされてすぐに再生回数が伸び始め、やがて猫屋敷 姫の目にも留まりました。
「私もうかうかしていられないですね。お気に入りのナインナイツカンパニーを、ばっちりアピールするのです」
　姫の和風なカプセルギア『ナデシコ』は、妖怪や神話伝承がモチーフのものが多いナインナイツカンパニー製。雰囲気たっぷりな伝統的日本家屋がたたずむ猫屋敷家の敷地には、なんとも馴染みまくりだったりします。
　そして姫には、このナインナイツカンパニーをアピールするのに、とある秘策をお持ちなのでした。

「ポイントアップ間違いなしなのです。フフフ」
　ほくそ笑む姫に応えるかのように、にゃあ、にゃあ。ふにゃあ！　ここはその名のとおりの猫屋敷でして、お庭には多種多様な猫ちゃんたちが常時スタンバイしております。
　しゅば！　取り出したのは光り輝く、猫缶！
「さあさ、寄っといで～なのです。その代わり、私にちょっと協力するですよ？」
　うにゃにゃん！　『ササミだニャン』と『ねこまんマグロ』をぱしゃっと開ける頃には、毛並みも色も様々なにゃんこたちが来るわ来るわ。つまりはちょっぴりこの猫たちに協力してもらい、カプギアファンだけでなく猫好きのハートもぐわしっと鷲づかみにしてしまおう！　という作戦なのでした。
　さっそくナデシコを操縦して、庭先へ鮮やかに咲いた紫陽花といっしょにパシャリ。池のほとりで演じる風流な剣舞をパシャリ！　さらには猫缶コントロールでたくみににゃんこたちを誘導し、ナデシコと猫のツーショットもパシャパシャリ。カプセルギアと猫のぬくぬくとしたふれあいは動画にして、ついでに、
「『よいこのみんな、カプセルギアで猫をいじめないでね！』っと、マナー啓発もしとくのです」
　実に抜かりなし！　でありました。
「まだまだ。ここからが私の真骨頂なのです！」
　と、おもむろに愉快な歌を歌い始めた姫。手にしたピコピコハンマーで、ピコん！　ピコんっ！　と叩かれたにゃんことナデシコが見る間に大きくなっていき、実に二倍のサイズまでずずいっと巨大化！
　姫はすかさずヘッドスライディングでずさーっと滑り込み、低姿勢からの大迫力アオリ視点で、巨大にゃんこ＆ナデシコをぱしゃぱしゃ、ぱしゃり。撮りまくり！
「おおお、ジャイアント近所の猫の圧迫感！　サイズアップしたナデシコのなめらかな動き！　この映像は迫力あるのですよ」
　そんな独自性あふれる写真に動画をさっそくねこったーへアップすると、たちまち「いいね！」「すごーい、どうやって撮ってるの！？」なんてコメントが殺到して、姫はしてやったりと微笑みました。



　そうして姫が撮影に没頭していたところ、なにやら表から声が聞こえてきます。
「たのもーっ！　で良かったですの？」
「おやお客さま。どーぞどーぞ」
　ゆるい姫の返答に、お屋敷を訪れたのは、
「オーッホッホッホ！！　わたくし、参上ですわぁ！」
　梨々子でした！
　ネコテックのさらなるアピールのため、バトルの相手を探していた彼女。姫のアップロードした動画には、『庭が広いのでバトルもできるのです。来訪歓迎』なーんて書いてあったもので、それならばとやってきたのでした。
「こちらの写真や動画を見て……ああ、どれも素晴らしかったですわ！　そこで、どうせなら見応えあるバトルを映像にしたいと思って、訪ねてみたんですの」
「そっちの動画も見たのですよー。とても良かったのです。バトル、大歓迎なのですよ」
　ふたりはさっそく、猫屋敷邸のひろーいお庭の真ん中へ向かい合って立ち、一礼。バトル開始！　周囲では数え切れないほどのにゃんこたちが、なんだかうずうずした様子で見守っておりました。
「アピール動画でも手加減無用なのです。ナデシコ、いくのです！」
「もちろん、望むところですわ！　踊りなさい、プリンセスダンサー！」
　ナデシコは軽快に跳ね回りながら、左手のユミから待ち針を連射！　隙をうかがいながら、細身の刀をしゅぱぱぱぱ！
　プリンセスダンサーも負けじとスカートを翻し、回避と同時にフリルの下へ隠された刃が姿を現して、回転しながらずばばばばん！
「ナデシコ、ステルス発動！　かく乱するのですっ」
「逃がしませんわぁ、リボンアームを伸ばして攻撃！　ああ、やっぱりカプギアバトルは、心躍りますわぁ……思いっきり楽しませていただきますわ、オーッホッホッホッホ！」
　小さなカプセルギアは広々としたバトルフィールドを縦横無尽に駆けめぐり、びしばしずばん。しゅばばばばん！
　この激しくもどこか優雅なバトルもまた後ほどMewTubeにアップされ、多くのコメントや歓声の声が寄せられることとなり、ネコテックとナインナイツカンパニーのアピールポイントに大きく貢献したということです。