フジコ・エルアモールのエンジェルセラピールーム｜リアクション

フジコ・エルアモールのエンジェルセラピールーム

　セラピー受講者：恵御納夏朝

　恵御納夏朝、１６歳。
　女子高生。この一年、寝子島で様々な経験をし、心配性で寝子島を脅かす存在に敏感な女の子。
　＜セラピー受講者の声＞を見た夏朝の頭は疑念でぐるぐるである。
（『フジコ様のおかげで彼氏ができました！　ずっと彼氏ができなくて悩んでた自分が、今では５人も彼氏ができるなんて信じられません！』……？　彼氏５人って二股どころじゃない！　いや、でも『６人全員了承してるなら』愛の形としてはアリ……？）
　とか、
（『フジコ様のおかげで人気者になりました！』……って『様』付け！？　まさか……一種の魅了効果……？）
　とか、
（寝子島等を脅かそうとする、影や闇と同系統の輩だったら……）
　とか、次から次へと疑心が増える。
　しかし、エンジェルセラピールームはそんな悩める子羊ちゃんの前に現れる、不思議な場所なのだ。
　そして、フジコ・エルアモールの前に座ってしまったということは、悩みがあるということなのである。

「フジコ・エルアモール……？　前世……おくさま……寒気が！？」
　謎の記憶に襲われた夏朝は、思わず身震いした。
「大丈夫。それは別の世界のあなたよ」
　フジコは穏やかに言った。
「この世界のあなたの悩みを話して？」
　そういわれても、安易に悩みを打明けてもいいものかどうか迷う。
　本当の悩みは、夏朝のもう一つの人格である夏夜と心身ともに分離・共存したい、ということだ。今の寝子島なら……この、神魂による異変が日常茶飯事な寝子島でなら、あるいは叶うこともあるのかもしれない、と淡い期待を抱くこともある。けれど、本当にそんな願いが叶うのだろうか。
　最終的に夏朝は、警戒心を解かずに平静装い、『日常的ともとれる』質問を投じた。
「大切な人と並んで、平穏な日々を過ごしたいです。でも……寝子島の平穏を乱したくありません、乱されたくもありません。寝子島がずっと平和なまま、大切な人と並んで過ごすには……どうすれば？」
「うーん、難しいわね～。あなたは今、大切な人と並んで過ごせない状況なのね」
　小さく頷く。
「そして、その人と過ごすことと、寝子島の平和は並び立たない、とあなたは考えているのね」
　また小さく頷く。
「究極の二者択一ね。あなたにとって、どちらがより大切か、胸に聞いてみて」
「それは……」
　もしもこの願いが叶うことで寝子島や皆のフツウを壊してしまうなら、そんな願いは叶えないほうがいい。そうも思う。だとすると、たぶん答えは。
「……寝子島の平和。もしそれを乱すなら、叶わなくてもいいと思ってしまうから」
「現時点では、そうなのね」
　フジコはもう一度、難しいわ、と言った。
「そうなると、別の世界、かしらね。あなたと大切な人が並び立つ、別の世界があるかもしれない」
「そんなもの、……」
　あるのかな、と言いかけて、あるような気がした。
　例えば、何度も冒険した空に浮かぶ塔のような世界。それ以外にも。
「ラッキーアイテムは『鏡』よ」

　気が付けば夏朝は自分の部屋にいた。
　鏡を見る。鏡の向こうには、もうひとりの自分、夏夜が映っている。……ような気がする。
　夏朝が鏡をそっとなでると、鏡の中のもう一人の自分の指と、鏡のこちらの自分の指とが重なった。
「僕と君が並び立つ世界が……あるといいな」

（※個人の感想です）

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