フジコ・エルアモールのエンジェルセラピールーム｜リアクション

フジコ・エルアモールのエンジェルセラピールーム

　セラピー受講者：橘明里

　橘明里、１６歳。
　女子高生。自称、ある日天から落ちてきた天使。
　エンジェルセラピールームの中で、天使な明里とエンジェルなフジコは長いこと見つめ合っていた。
　それはまさに、天から地上に舞い降りた天使たちの邂逅であった――と言ったら大げさだが、まあだいたいそんな感じの印象をふたりは受けていた。
「あかりは考えたなの。天使とはいかにして天使となるのかと」
「深淵なテーマね」
「ましてや、あかりは守護天使なの。みぃんなのことを守護するやくめなのなの。みぃんなのちかくにいなければいけないのなの！」
　近所のカフェで聞いたら厨二な子かななんて見られちゃいそうな明里の話も、ここでは全然変じゃない。その証拠に、ふむふむ、とフジコは真剣に頷いている。
「でも、何をすれば守護できるなの？」
「天使たるもの、自分で考えなさい」
　フジコはぴしゃりと言った。
　しかし大天使様を目の前にした明里は、どうしてもアドバイスを貰いたいと食い下がる。
「あかりはまだまだひよっこなの！　フジコ様せんぱいはきっと、あかりより数段強い天使なのですからあかりが知らないこともいっぱい知ってると思うなの！　教えてフジコ様せんぱいなの！」
　そんなに持ち上げられてはフジコとしても悪い気はしない。
「仕方ないわね。じゃあ、アドバイス。不思議感を増やすために、滑るように移動なさい」
「滑るように……？」
　明里はきょとんとして首を傾げる。
（滑るように移動ってどうやるのなのかな？　正座して足の指だけで移動とかかな？　ローラースケートかもなの。あるいは滑車をつかって……！）
　ぐるぐる考えていると、フジコはもうひとつ大事なことがあると言った。
「いつもにこにこ笑っていなさい」
「いつもにこにこ……わかったなの！」
　明里は口元を両の人差し指で押さえた。
（頑張って笑い続けるのなの！　怒られてても笑うのなの。辛くても笑うのなの。楽しくても笑うのなの！）
　にこーっと左右に引き伸ばすように口角を上げる。３分くらいでほっぺたが痛くなった。
「け、けっこう大変なののの……」
　はあーっと息を吐いて、顔を戻す。
「そうよ～ん、思った以上に大変でしょ？」
「それでも！　立派な天使になりたいなのから。みぃんなのことを守れる天使になりたいなのから」
　明里はふたたび口角をあげる練習をはじめた。
　それを見たフジコは、人差し指をそっと明里の鼻に当てる。
「そう、いちばん大事なのはその気持を持ち続けることよ」
「はっ。そのお言葉がとてもすとんと心に落ちるなの！　そうなのですなね！」
　立派な天使になりたい、みんなを守れる天使になりたい。
　その気持ちは人一倍だから、きっとできる！

　エンジェルセラピールームから出てきた明里の表情は勇気とやる気に満ち満ちていた。
「あかりはがんばるの。他人からも、立派に守護天使だと認められる、その時まで！」

（※個人の感想です）

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