『カフェ・フル』でティータイムを｜リアクション

『カフェ・フル』でティータイムを

とある場所で見つけた『カフェ・フル』なる店へと入った響タルトは、目を見開いた。
「こ……これは」
　普通のカフェと同じくカウンター席やテーブル席が配置されている。しかし、そこはタルトの愛読するＢＬコミックのキャラクター達で彩られていた。
「もしかして」
　壁中に貼られたイケメンキャラのポスターに等身大のキャラパネル、そして特別メニュー表など。
「これ、行ってみたかったＢＬコミックのコラボカフェ？　やった～。頼みたかったメニューいっぱいあるんだよね」
　タルトが目を輝かせていると、
「いらっしゃい」
　店の奥から小学生らしき男の子が出てきた。
「あっ、ショタ！？」
「はぁ？」
「あ、こっちの話！　キミ、店員さん？」
　とは聞いてみたものの、小学生に見える高校生なんてこともあるかもしれない。もしくは家の手伝い、とか。タルトが彼に年を聞こうか迷っていると、
「これ。見えねぇのか？　店長だよ、店長。小学生だけどな」
　ネームプレートには『店長　アキ』と表記されていた。
「えーと……良いのかな、こんなＢＬカフェで働いてて」
「ＢＬ？　なんだ、そりゃ。つーか、早く座れよ。水持ってくる」
　アキに言われ、タルトは近くのテーブル席へ。
「ぶっきらぼうタイプのショタだね、いいな～」
　アキの背中を見送りつつ、コラボのメニューを開いた。
「うわ～、凄い。迷うな～」
「ほら、水」
　戻ってきたアキがテーブルにグラスを置いた。
「で？　注文は？」
「それじゃ、『ショタ鬼畜攻め禁断の生ハムパスタ』と『妄想カップリングパッキー』『ラブラブ水』下さい☆」
　アキは無言で注文表にペンを走らせる。
「言いにくいんだが。妄想カップリングパッキーは品切れだ」
「えっ？　品切れ？　店員さんがいちゃいちゃしてくれるのが楽しみだったのに、残念だな～」
「おれしかいねぇーし、無理だ」
　タルトは楽しそうにテーブルに頬杖をついた。
「キミ、尊敬するお兄ちゃん的イケメン男子にデレデレになっちゃいそうなタイプだよね～」
「何言ってんだ」
「なんでもないよ～。じゃあ、『総受け系男子のプリンパフェ』で」
「他にご注文は？」
「ないけど、店長さんにセリフのリクエスト」
「……は？」
　アキが眉を寄せたので、タルトはイケメンキャラの等身大パネルを指でさした。
「あれに向かって「実はおれ、兄貴のこと、好きだったんだ」って。頬染めてくれると嬉しいな」
「そういうサービスやってねえから」
　アキはそう言って、再び奥へ入って行った。
「楽しみだな～」
　ふと前の席を見ると、客の女の子、楡宮遠海がミルフィーユを食べていた。
「あっ……！　『わんこ系男子のミルフィーユ』！？　お、美味しそう。あれでもよかったな～」
　アイスティーを飲んで、一息吐いたらしい彼女、楡宮遠海が振り返る。視線に気づいたのだろう。
「わんこ系いいよね～」
　タルトがそう声をかけると、遠海はぽかんとした。
「わんこ？　わんこ……あ、値段はわからないけどこれはワンコインではないと思うけど」
「んん？」
「？」
　お互いに首を傾げていると、アキが注文したメニューを運んできた。
「お待たせしました」
「待ってたよ～」
アキはタルトの前に皿を並べ、
「んじゃ、ごゆっくり」
「ありがとね、アキくん」
「店長だからな」
　メニューはどれも美味しかった。
「ラブラブ水は普通の炭酸だけど名前が良いよね～」
　客は腐女子ばかりかと思ったが、美形カップルも多かった。
と、少し離れたところで、向かい合っていた夫婦の女性、伊藤恵美と目があった。
「わあ、あの奥さんなんか可愛い～。けど、大人っぽい」
見ていると、手を振ってきたので、思わず振り返す。
「ＢＬカフェでデートなんて、ちょっと憧れちゃうな～」
　タルトはパスタを食べながら辺りを見回す。
「眼福眼福。それに美味しい」
　ぺろりと平らげたタルトはカフェを後にしたのだった。
「いやー、満足満足。また是非来たいな～」

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