愛とウサギとチョコレート｜リアクション

愛とウサギとチョコレート

■不思議の国の道産子兄妹
　気づけば、皆バニーだった。
　オオカミ男の『チョコくれ宣言』が発動され、辺りは騒然とする中。澪乃湊弥はその眼鏡の下の眉間に皺を寄せていた。
（男も女もバニー……）
　道行く人々は老若男女、頭にうさみみを揺らしている。
　ファンシーな着ぐるみ姿もあれば、歩く度にたゆんたゆんと揺れるセクシィバニーも当然のように闊歩しているわけで。
「大胆な街並みだな」
　湊弥がポソリと呟く。複雑な声色である。
「やっぱりみんなウサギだねえ」

　隣を歩く湊弥の妹、澪乃澄佳もまた声をあげた。しかしその声はどこかあっけらかんと明るさを感じさせ。
　そんな澄佳も勿論、バニー服である。
　澄佳のドレスタイプのバニー服はふんわりと膨らんだスカートが華やかで。
　澄佳が動くと黒のストッキングがニーハイであることをチラリチラリと理解させる絶妙なスカート丈である。イェス、ナイスストッキング！
　そんな絶妙なスカート丈にハラハラする湊弥お兄ちゃん。
（澄佳も俺もなんて格好なんだ……！）
　対する湊弥はウェイターの如きバニー服。大胆なノースリーブが湊弥の細身でありながら引き締まった腕をより魅力的に見せている。
（バニーは嫌いじゃない。ドレススタイルもめんこい。だが……！）
　足のチラリズムだけではない。
　隣を歩く澄佳の胸元は大胆に大きく開き。首からぶら下がった懐中時計がまた、澄佳の胸元に気を引かせるアクセントのようにも見えてしまう。
（ダメだ、見られるわけには……！）
　きっと気恥ずかしい思いをしているだろう、自分が妹を守らねば、と澄佳を見れば
「チョコレート、ね……まずは町でお買い物かねえ、湊兄ぃ」
　平然とした様子の澄佳。気恥ずかしいどころか、どこかワクワクした様子にも見える妹の姿に
（気にしてないなこれは……）
　そっと己の額を押さえる湊弥だった。

　しばし寝子島の街を歩く澄佳と湊弥。そこまで変わりはないようだが、やはりバニーだらけなのは異質。ハロウィンでさえここまでコスプレは闊歩していないだろう。
（湊兄ぃは色々悩んでるみたいだけれども……）
　冷静沈着な物腰を保っている湊弥ではあるけれど。
　長く過ごしてきた家族であるがゆえ、兄のちょっとした変化や心の機微がわかる澄佳。
　澄佳としては、周りが皆バニー姿であるためか、同じ格好であることから恥ずかしさを感じることもなく。むしろ、この異空間を楽しく感じてしまう。
　更にお菓子作りを趣味とする澄佳にとっては、このチョコレートを渡すというミッションもどこか魅力的に思える程。
「あ！」
　そんな澄佳が声を上げた。
「うわあ、湊兄ぃ、見て見て！珍しいものいっぱいだよう」
　澄佳がぴょこぴょこと、不思議の国のアリスの時計兎の如く街を進んで行く。
　いつものお店であるはずが、やはり夢の世界の影響なのか、商品のラインナップが異なっているようだ。
「おい、澄佳あんまり走るなって」
　色んなお店を見つけては立ち止まり、その明るい灰色の瞳を輝かせる澄佳。
　そして駆け出す澄佳を慌てて追いかける湊弥うさぎ。
　コンビニの前を通り、広い通りに出た途端。
（……あれ？）
　いつの間にか、目の前から消えてしまった澄佳ウサギ。
「澄佳？澄佳、どこ行った？」
　いつもならば、おそらく直ぐに見つけられるだろうが、今日の街はウサギだらけ。
（……揺れるウサ耳に気を取られてしまう……！）
　そう思いながら澄佳を探す湊弥だった。

　その頃、澄佳は見慣れぬお菓子屋の前で瞳を輝かせていた。
　愛らしく、また見たことないお菓子たちに、つい店内へと進む。
「あら！お菓子の材料がいっぱい！」
　製菓材料の種類の豊富さ……どころか、見たことないものばかり。
「このキラキラさらさらは……薄力粉？ふへう、こんななんま白くて細かいの、初めて見た！」
　お菓子作り好きとしては、見逃せないアイテムの数々。　　
「こっちはお砂糖！これもすごいきめ細やか……」
　艶やかな輝きを放つお菓子材料たちに澄佳は驚きを隠せない。
「この粉と砂糖だったら、いつものお菓子が更に美味しく変わりそうだねえ……あ、こっちのバターも凄い……香りが段違いだようっ」
　興奮と共に店内を動き回る澄佳だった。

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