■新たな世界よこんにちは
　紫苑は、身体が火照っていた。
　先程から次々とチョコを食べていた紫苑に異変が起きる。
（なんだか、身体が火照ってしまっているようです……）
　決してチョコの食べ過ぎなどではなく、あるチョコを食べてから紫苑の目が潤み始める。
（脱いしまいたい位に熱いのに……脱げないです）
　纏う布が少ないバニー服ですらも脱いでしまいたい程に、身体の内側から暑さを感じる紫苑。
　しかしそれでも、とろんとした表情でチョコを食べ続ける紫苑だった。

「オオカミ男よ、チョコを持って来たぞ」
　そこにやってきたのは桜 月と北条 冬華の姿。
　ダイナマイト級バディを持つ二人がバニー姿で立つ姿はファビュラスでマーベラス。
「おや、月詠さんじゃないか」
「良い所に来たな、月。はい、二人はウサキュア」

　突然月詠に振られた掛け声であるにも関わらず、動揺を見せる間もなくポージングを決める月。
　２人のバニーコンビネーションぷりに感激である。オオカミ男は無論鼻の下が伸びている。
　冬華さんは胸の前で小さく拍手を送っていた。イェス、バニー。
「ほら、受け取れ。お望みのチョコレートだ」
　月がチョコレートをオオカミ男へと差し出す。
　丁寧にラッピングされたチョコレートをオオカミ男は受け取り、その包みを開く。
　中から現れたのは……ビターな、を通り越して黒い。それはそれは黒い塊。
「随分と黒いが……」
　オオカミ男がそのチョコを齧る。
「苦ッッッッ！！！！」
　ぶふぅっ！！ と思わず口から飛び出るチョコの欠片。
「カカオ100％でももう少し甘いわ！」
「いや、100％に甘みはない」
　オオカミ男に月詠が冷静に突っ込む。
（そう言えば、月さんが何か入れていたような……）
　冬華が思い返す。そしてオオカミ男を見れば、明らかに不機嫌な表情へ。
（このままじゃ月さんがウサギにされてしまいます……！）
「月さん、チョコレートを甘くする方法があります」
　頬を染めながら、冬華が月の腕を掴む。
「なんだ？ 別に甘くしなくても……」
　そう言う月の腕を冬華がグイと掴み。冬華と月が対面し、その胸に月が作った無糖ココアたっぷりの激苦チョコレートをお互いの胸で挟み込んだ。

「なんでこんなこと……！」
　月はそう言いながらも、己の肌に感じる冬華の温かくしっとりとした肌の心地に安らぎを得る。
「オオカミ男さん、早くしないと溶けてしまいますよ？」
　冬華の言葉にオオカミの鼻から赤い筋が一筋流れる。
「た、確かに甘みは増してそうだな……」
　そう言いながら、二人の胸の間からそろりそろりとチョコを取り出すオオカミ男。その手は緊張か歓喜のためか震えている。
「変な所を触ったらただじゃおかないぞ」
　そう言う月の視線にビクビクしつつ、胸の体温でややとろけたチョコをオオカミ男がまた齧った。
「あぁ、冬華の胸に溶けたチョコが……」
　月が冬華の胸についたチョコをついペロリと舌で舐めとれば。
「ひゃ……っ！ 月さん、皆さんが見てますから……！」
　オオカミ男がガン見したり、リリエルがそっと瑠樹の目元を手で覆ったり、それに構わず紫苑がチョコをモリモリ食べてたり、湊弥が赤面したり。
　七星と澄佳はお菓子作り話に夢中でピンク色な空気には気づかぬ模様。

　そんな中、更なる美少女バニーが現れた。
　否、美少女風バニーである。
　片手にはチョコ、片手は己の胸元を押さえ、耳の後ろの白い羽根がピコピコと動いているのはシーナ・キュクノス。
　スタスタとオオカミ男の前まで歩み寄る表情は冷静に見える。
　鼻血を拭きつつ、更なる可愛いウサギきた！ とオオカミ男が内心ワクテカしてる中で、シーナは颯爽と手に持つチョコをオオカミ男へと向けた。
「はいどうぞ」
　塩対応である。
　だがそれも仕方ない、シーナはバレンタインという風習も知らないわけで。
「こういうツンツン系も嫌いではないが」
　さっきまでの濃密ラブシーンが脳裏から離れないこともあってか、物足りなそうなオオカミ男の表情にシーナの頭にハテナマークが浮かぶ。
（普通に渡すものじゃないのか……？）
　シーナは思う。そして、気付いた。
（確か、僕の前の二人組は……！）
　シーナが城についた際、二人のバニー・月＆冬華が胸にチョコを挟んでいた。
（アレがチョコを渡す作法だったりするのか……）
　ビバ、勘違い！
（でも挟む胸はないし……）
　確かに、華奢な少年であるシーナの胸には残念ながら膨らみはない。
（あ、でも……）
　身につけているバニー服、それは女性ものゆえ胸がカパカパと開いている。つまり。
（ここに入れればいいのか……！）
　オオカミ男に渡しかけていたチョコをＵターンさせ、シーナは己の胸へと押し込んだ。
　それでも余る胸元を押さえつつ。シーナはオオカミ男の前で状態を低くし、そのチョコを格納している胸元をアピールする。
（ど、どうぞ……食べてください）
　なんだか、とても恥ずかしい……！
　冷静な表情ながらも、シーナの頬は赤らみ、その耳の後ろの羽はふるふると震えている。
「え、ツルペタ！？ いや違う、男？ え？」
　上目遣いに潤んだ瞳のシーナの姿はどう見ても少女のそれであり。オオカミ男は動揺を隠せないでいる。
「い、いただきます」
　オオカミ男の手がシーナの胸元へと延びる。チョコへと伸びているはずなのに、その手の平がシーナの胸に微かに触れ
（……ッッ！）
　ビクン、とその身体が跳ね上がるシーナ。

（くすぐったいし、ぞわぞわする……ッ！）
　早く取ってよ、と言わんばかりに更に腰を屈めるシーナの瞳は濡れ。
「なんだこの緊張感……！」
　オオカミ男が新たな世界に目覚めかける瞬間であった。致し方なし。