はじめての体験｜リアクション

はじめての体験

　星幽塔第三階層。
　八神修は完全土木作業装備で畑へ向かった。
　こんなことはもちろん初めての経験である。
　修は星幽塔で友人達と武具屋併設コンビニ「ねこよろず」を経営しているが、第三階層にはその畑も、皆との共同の畑もある。
　その共同畑に先日、大きな被害が出てしまった。
「君達だけに負担はかけれないよ。俺達の畑でもあるんだからさ」
　日ごろから農作業に励んでいたモグラ妖精たちに、修はにっこりと言う。
「復旧状況はどうだい？　被害作物の撤去が途中なら全部撤去してから作業にかかろう」
「あと少しで終わるところだよー」
「そうか、では片付けてしまおう。繭跡の汚染確認もしたい」
　汚染されているかどうかわからなかったが念のため、修は土をネコ車で回収除去し、新しい土に入れ替えた。
「この場所に何か植えよう」　
　汗をぬぐいながらモグラ妖精たちに相談する。
　季節に合った野菜の苗を用意し、農作業の手順については本やネットで調べてきた。
　しかし、実際にやってみると想像以上に大変だ。
　すでに腰が痛い。修の体力だと、重い土を運ぶ作業はかなり辛い。
　上着は暑くてすぐに脱いだ。
（自分達の畑でもあるんだし、頑張りたい）
　その一心が修を支えている。
　星幽塔に耕運機はない。自分で肥料や土壌改良剤をまき、鍬を振るって畝を作る。
「ちょっと休憩するか……」
　膝が笑い、腕もぷるぷる震えてきた。
「大丈夫なのー？　ぷるぷるしてるよ、ぷるぷるー！」
　モグラ妖精たちが心配そうに、けれどどこかおかしそうに声をかけてきた。
　修もなんだか可笑しくなって笑ってしまった。
「ありがとう、元気をもらえるよ」
　休憩の後どうにか苗植えを終えて、やれやれと腰を下ろすと。
　修のお腹が、きゅるる……と鳴った。

　立ち上がって修は荷物を開いた。
「ご飯にするか。肉は持って来てあるんだ」
　無事な野菜と肉を鍋に入れ、皆で暖かい味噌鍋を囲む。
「おいしいねー」
　モグラ妖精たちも美味しそうに、素朴な味の味噌鍋をつつく。
　それはシェフが腕を振るったどんな豪華なご馳走よりも修の疲れた体に染み渡った。
「モグラダイヤは鍋に入れたらどうなるかな」　
　ふと思いついた。
　モグラダイヤはモグラ達の大好物の、ダイヤに似た形の実だ。
「ちょっとやってみよう」
　モグラ妖精たちも興味深深で覗き込んでいる。
　味がしみた頃、皆で食べてみた。
「おいしい！」
「いけるね」
　口々にモグラ妖精たちが感想を述べる。
「変わった味だが、なかなかいいかもしれない」　
　修もつぶやいた。

　鍋が空になる頃、お腹がいっぱいになった修は寝息を立てていた。
「おつかれさまー」
「おやすみなさい」
　モグラ妖精たちは修に上着をかけてやるのだった。
　

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