はじめての体験｜リアクション

はじめての体験

　恵御納夏朝は、なんとなくうずうずする気分を感じながら町を歩いていた。
（何か始めてみたい気分！　絵本……は、この前作ったし）
　ファストフード店の壁に貼られたポスターに目を留める。
「アルバイト募集……あっ！　これなら……！？」

　話はとんとん拍子に進み、夏朝はバイトとして店に立つことになった。
（初めての……ファストフード店でのアルバイト！　例によって短期だけど……）
「よろしくお願いします！」
「お客さまの前ではスマイルを忘れずにね」　
　普段は割と無表情な夏朝だが、そう言われて頑張って、スマイルで挨拶する。
「いらっしゃいませー！」
　注文を聞いて、持ち帰りか店内で食べるか聞いて、レジ打ちしつつ厨房に連絡。
　ドリンクはこっちで入れて、ストローなどもちゃんと用意する。
　普段お客の立場で何気なく見ていたけれど、店員さんのやることはとても多いのだ。
（できた商品を受け取って、間違いないか確認して、お客さんに渡して……お会計も忘れずに！　わわ、結構お客さんが多い……！）
　商品名も似たようなものがあるので、間違えないようにしなくてはならない。
（テーブルで待ってるお客さんにも、間違えない様、大切に商品を届けるね）
　大変ながらも、流れをつかめてきて、夏朝は順調に仕事をこなしていた。
　しかし。

　突然、耳鳴りと視界異常が夏朝を襲った。
　目の前でお客さんが話している言葉が、耳に入らない。
（って、こんな時に……後遺症……！）
　幸いすぐに収まったものの。
「すみません、もう一度お願いします……！」
　幸いお客さんは文句を言わなかったけれど、周囲からはぼーっとしてたってとられてるようだ……
「ごめんなさい……ありがとうございます」
　
　店がすいてから、上の人に呼ばれた。
「考え事してたの？　お客さまの話を聞いてないのはすごく失礼だよ。次からは気をつけてね」
「はい……すみません」
　夏朝は言い訳せずに頭を下げた。
（怒られちゃった……後遺症自体も、ミスも、僕のせいだから仕方ない。でも……やっぱり、受付等での接客業は難しいのかな……）
　この先のことが不安になってしまう。
（いけない、気持ちを切り替えなきゃ）
　暗い気持ちを顔に出すまいと、スマイルを忘れずに、頑張って接客を続ける。

　やがてやってきた子連れの客が、おまけつきのセットを注文した。
（あ、このセットのおまけ、猫さんなんだ）
　夏朝がそう気づいた時、子供が目をキラキラさせて言った。
「ねこさんのおもちゃ、ください」
「はい、どうぞ」　
　心からのスマイルで、夏朝はおもちゃを手渡した。
　
　何とかバイトは終了した。
（ミスの分は減ってるかな？）
　そう思ったけれど。
　確認するとお給金はちゃんともらえていて、安心した。

（今後は迷惑かけないように気を付けつつ……初めてな事、色々やってみたいな）

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