はじめての体験｜リアクション

はじめての体験

「やっと見つけた……」
　寝子高２年の透明は、姉から割引券をもらったので軽い気持ちで足つぼマッサージの店に出掛けた。
　しかし場所がわからず散々歩いてたどり着いたのだった。
「いらっしゃいませ」
　入ると、優しい音楽と共に美人の店員がお出迎えしてくれた。
「足の裏は第2の心臓と言われるほど、体中の器官のつぼが集まっています」
　流れるように滑らかな口調で店員が説明してくれた。
「台湾式は足つぼを刺激し効果を重視したもので、さまざまな症状を改善するのに役立ちます。英国式はアロマオイルなどを使って優しくもみほぐすリラクゼーションを重視したマッサージで、血行促進に加え大きなリラックス効果が得られます」
「それじゃあ、英国式で」
　刺激が少なそうなオイルマッサージを選んだ明は、店員に促され椅子に座る。
　気持ちが良くて寝る人もいるんですよ、と言いながら店員が準備を始めた。
（緊張してきた……）
　親とかにマッサージするのは得意なのに。肩もみなので足とはまた違うが。
　オイルのついた店員の手が足に触れ、さすられる。
「う……くっ……」
　全身に力が入る。
（何か、楽しいこと……銭湯とか）
　平気なフリをするため楽しい事を想像しようとする。いい湯加減の気持ちのいいお風呂……
（いい湯だ……！　だめだ）
　1秒で吹っ飛んだ。
　思わず水揚げされた魚のように口をパクパクさせる。
（そういえば俺、くすぐったがりだった）
　今の俺、滑稽な顔をしているだろう。
　そう思いながらも、漏れだす声を止められない。
「……ぁ……うぅ……」
　すごく恥ずかしい。来なけりゃ良かった。
　ギュッと目をつぶったまま、明は思う。
（店員さん、やりにくそうだ）
「ひははは、すいません、すいません！」
　限界だ。5分ももたずに足を動かしてしまった。

「お客様は学生さんですか？　……寝子高ですか、私もあそこの出身なんですよ」
　店員さんが気を利かせて積極的に身近な会話などをしてくれて、いくらか緊張が解けた。
「それじゃ、始めさせていただきますね」
　マッサージを再開してもらうと、不思議なことに今度はくすぐったさをあまり感じなかった。
　無事に１５分後終了。
　店員さんによると、くすぐったいのは感覚異常の１つで体が警戒している証拠なのだとか。
「お客様、肩凝りがひどいんじゃないですか？」
　と指摘されて明は驚いた。
（足しか触っていないのに分かるんだ……）
　普段肩もみマッサージはうまいとほめられるけど、身体の他の部分のことなんて触ってもわからない。
（俺は、マッサージについて何も分かっていないド素人なんだな）
　気がつけば、何か体が軽くなっていた。
　
　店を出た明は思う。
「また来たい……次回は台湾式に挑戦だ！」
　

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