ゴリラ・エクスペリエンス｜リアクション

ゴリラ・エクスペリエンス

■心優しきゴリラ
　ウッホ。
　ウホウッホ、ウホホ。ウッホゴリラ。ウホバナナウッホ、ウホ？
　ウッ……しまった日本語を忘れていた！
　申し訳ない、頭から語り直そう。

　時はゴリラ歴０８７７。ジャッパンのゴリラ島ではゴリラたちは平和に暮らした。
　フツウのゴリラエブリデイ。彼らは今日もバナナを食い、ドラミングをし、ウホウホしていた。
　だが皆は知っているだろうか。このエブリデイを守るべく、ゴリコンをもつゴレイビや、心優しきゴリラたちが悲しみや不幸と戦っているということを。
　そんなゴリラのひとり、響蒼留人は平和な町をゆっくりとナックルウォークしていた。
　爽やかなウルフカットヘアが風に靡き、思わず歌い出しそうな風情だ。
　だが彼が鼻歌をはじめようとしたその時、遠くからの泣き声が足を止めさせた。
「ん、なんだウホ？　誰かが泣いているウホ」
　ゴリラは優しい。
　蒼留人とて例外ではない。誰かの悲鳴を聞いたとき、それを絶対に聞き漏らさない強い心をもっていた。
「声は聞こえるのに姿は見えないウホ。……そうだウホ！」
　蒼留人は素早くバナナを食べると、その皮を地面に叩き付け、勢いよく踏みつけた。
　食べ物を粗末にしたのではない。彼の持つゴリコン、ジャンピングバナナの発動条件なのだ。
「ウホ！」
　バナナの皮を踏んだ彼は高く高くジャンプし、木々の向こうまで見渡すことができた。
　こうして何回かぴょんぴょんジャンプしてみれば、泣く子供だって見えてくる。
　見えないものは高くジャンプすれば見える。
　それでも見えないものはもっと高く飛べば見える。
　これこそゴリラ精神だ。きっと月の裏側だっていつか見ることができるだろう。
「見えたウホ！」
　蒼留人は再びのジャンプで子供のそばまで飛んでいくと、ゴリラ着地（片膝立ちと拳で着地するすごくかっこいいやつ）で子供の前に現われた。
　びっくりとして顔を上げる子供。
　どうやら男の子のようだ。
　自分を見つめる男子ゴリラに、蒼留人はそっとバナナを取り出した。
「ほら、食べるウホ。お腹がいっぱいになれば、ひとまずは悲しくないウホ」
　悲しい時はバナナを食べろ。
　ゴリラ語録にも記されている言葉だ。
　とりあえずバナナを食べて落ち着いた男子ゴリラ。蒼留人はひとまず頷いて、彼の手を取った。
「はぐれないようにするウホ。……ウホッ？」
　その時脳裏に走る姉の存在。もっというと姉が好きな男性同士の同性愛作品の存在。
「ウッ、ウホ！　ウホオオオオオオオオオオオオオオウ！」
　蒼留人は思わずドラミングをして気持ちを振り払うと、びっくりしていた男子ゴリラの手を再びとった。
「なんでもないウッホ。さ、家まで一緒に帰るウッホ」
　こうして、蒼留人は迷える男子ゴリラを家まで導いたのだった。
　なぜそんなことを？　人間なら疑問に思うかも知れない。
　だがゴリラが親切心をはたらかせることに理由などないのだ。
　強いて言えば、そう……。
　ゴリラは優しい。

このページにイラストを設定する