ゴリラ・エクスペリエンス｜リアクション

ゴリラ・エクスペリエンス

■幸せなゴリラ
　座敷であぐらをかき、窓の外に流れる風景を見つめるゴリラ。
　名を魚塚源三。毎日を楽しく幸せに過ごすいちゴリラである。
「今年も、この季節がやってきたな」
　ざるに重なったバナナをひともぎして、丁寧にむく。
　ひとつ囓ればバナナの甘さと太陽の力が身体に流れ込んでくるようだった。
　今日もバナナが美味い。
　つまり、エブリデイハッピーだということだ。
「ゴリラにはこんな言葉がある。明日喰うバナナが美味くなるように生きろ……と」
　源三はすこし含蓄のあることを言ってから、うほうほバナナに集中した。
　すると。
「てぇへんだてぇへんだ！　旦那、てぇへんだぜ！」
　小柄なゴリラが飛び込んできた。
　縁側からどたどた中に入ると、床を叩きながら呼びかける。
「旦那ぁー！　源三の旦那ぁー！」
「うるせえ！　今バナナ食ってんだよ！　バナナを食ってるゴリラを邪魔するなって言葉を知らねえのか！」
　がらっと襖をあけて顔を見せる源三に、小柄ゴリラは背を丸くして謝った。
「すいやせん！」
「許す！」
　謝ったらとにかく許す。
　でないとお互いバナナがまずくなるからだ。
　源三はバナナを一本もぎ取ると、小柄ゴリラへとパスしてやった。
「で、なんだ。なにが大変だってんだ」
「へい旦那、それがですね……」

　あまりの事態に、源三はバナナを吹き出すところだった。
「なんだって！？　ゴリラ大会が中止になるだと！？」
　ゴリラ大会。
　それはゴリラオブゴリラを決めるための大会だ。
　毎年この日のために数多くのゴリラがゴリラ性を磨き、その勇士を見るべく多くのゴリラが集まる。
　これはゴリラの祭りなのだ。
　いい大会が開かれれば今年一年バナナが美味い。そう言っても過言では無い。
　だが逆に……。
「参加選手がバナナあたりをおこしたんでさぁ。どうします旦那、選手がいないんじゃ大会もできねえ。今年はナシってことにしますかね」
「馬鹿野郎！」
　源三は小柄ゴリラにげんこつをくれてやった。
　ゴリラは有り余る腕力ゆえに、ゲンコツもまた強力だ。しかし心優しいゴリラはその腕力で小動物を傷付けたとき、深い悲しみにバナナも喉を通らなくなってしまうという。
　それゆえ、このゲンコツもパワーをセーブした、愛のあるやさしいゲンコツだった。
「大会が開かれなきゃ沢山のゴリラががっかりしちまう。この日をいい日にするために努力してきた選手たちもだ。そんな姿を見過ごして、明日喰うバナナがうめえのか！」
「だ、旦那ぁ……それでこそだ！」
「行くぜ、選手がいねえなら、俺が選手になってやる！」

　ゴリラは優しい。
　ゴリラは力強い。
　会場には、新たな選手にエントリーするゴリラたちが何人もそろっていた。
　そんな中に堂々と入っていくと、源三はエントリーナンバー１番の札をむんずと掴む。
「今年のゴリラオブゴリラは俺だ。俺を見ろ！」
　堂々としたナックルウォーク。
　激しく情熱的なドラミング。
　源三の咆哮は歌となり、会場じゅうの胸をふるわせた。
　熱狂するゴリラたち。
　スタンディングドラミングに包まれ、源三はニッと笑った。
　ゴリラは、毎日が幸せだ。
　ゴリラがゴリラであるかぎり。

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あとがき

担当マスター：青空綿飴
ファンレターはマスターページから！

ウホ、ウホホウッホ！　ウッホバナナ！
（日本語訳：明日喰うバナナが美味いかどうか。そんな生き方ができたなら、きっと悲しみや不幸も乗り越えられるのかもしれません。何か大きな困難にさいなまれ、明日行く道を見失った時……きっと思い出してください。ゴリラの心を。バナナのおいしさを。そしてあなたの毎日が、幸せでありますように！）

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