オーダーメイドフラワー｜リアクション

オーダーメイドフラワー

「うわぁ……」
　花屋『フィオーレ』の店内に一歩足を踏みいれて
宮祀智瑜は感嘆の声を漏らした。
店内には、所狭しとばかりにありとあらゆる花が揃っている。
季節の花はもちろん、旬を外れた花や少し変わった色のものまで
店内で色とりどりに咲き誇る姿は、小さな庭園のようだった。
「お花を贈りたい人……かぁ」
　店の外で見かけた張り紙の内容を再度思い起こし口にするものの
智瑜が花を贈りたい相手はもう決まっていた。
「やっぱりお祖父ちゃんとお祖母ちゃんかな。
いっぱいお世話になってるし」
　他界した両親に代わり、智瑜のことを大切にしてくれている祖父母。
青果店の仕事もこなしつつ、時に厳しく、時に優しく智瑜の成長を見守っていてくれた。
今はまだ学生の身で、そんなに大したことはできないけれど
何とかして感謝の気持ちだけでも伝えたい、と。
そう考えた智瑜は祖父母に贈る花束を、フローリストさんと二人で考え始めた。

　店内にはたくさんの花が用意されているものの、やはり旬は春の花。
特に五月の花は今が最も美しい時期だという。
「じゃあ、五月の花をメインにアレンジをお願いします。
お小遣いから、奮発です」
　智瑜の言葉にフローリストさんはわかりましたと頷いて、
フラワーバケツの中からとりわけ綺麗に咲いているものを選んで
手慣れた様子で束にしてくれる。
時折、この花はどのあたりに配置しましょうか、と尋ねてくれるので
智瑜はそれにこたえるだけで良かった。
　待っている間に店内を見回すと、ふと、綺麗に咲いているバラの花が目に入る。
バケツの中で寄り添っている二輪のバラが、いつも見ている二人の背中に重なって見えて、
智瑜は思わずフローリストさんに声をかけた。
「あの、すみません、やっぱり、このバラもお願いしてもいいですか？
真ん中に、二輪寄り添う感じで……」
　頭に浮かんだイメージをそのまま伝えると、
フローリストさんは、承知しました、と笑ってアレンジをし直してくれる。
出来上がった花束は
いつまでも仲良く支え合って暮らす祖父母をイメージした二輪のバラと、
ふたりを囲むように五月の花々が咲き誇る、可愛らしい花束になった。
最後に、花束をラッピングしたフィルムをリボンで留めて出来上がりだ。
フローリストさんは、迷わず智瑜がしているのと同じ青のリボンを選び、
花束の根元にくるりと巻いて綺麗な蝶々結びを作ってくれた。

　大好きな祖父母に見立てたバラと、それを留める智瑜の青いリボンで
家族三人の幸福な姿を表現した花束となった。

「ふふ、可愛くできました。喜んでもらえるかな……？」
　『フィオーレ』からの帰り道。
手にした花束を眺めては、期待と不安の入り混じった表情を浮かべる智瑜。
誰にも伝えず、ひとりで決めた贈り物。当然、計画はサプライズということになる。
喜んでもらえないわけがない、と分かってはいても
サプライズプレゼントはいつだって緊張するものだ。
そろそろ、店は閉めてふたりとも青果店二階の自宅にいる時刻。
智瑜は感謝と大好きの気持ちをたっぷり込めて、
花束と共に家の扉を開けた。
「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、いつもありがとう！」
　そう声をかけて花束を差し出せば、
居間でくつろいでいた祖父母は、一瞬目を丸くした後、泣きださんばかりに喜んだ。
智瑜の頭を撫でて礼を言い、智瑜が持ち帰った花束は
居間の一番よく見える場所に大切に飾られたのだった。

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