オーダーメイドフラワー｜リアクション

オーダーメイドフラワー

　ふらりと足を踏み入れた花屋。
花風冴来は店内の様子を見てすぐに好感を抱いた。
店内の雰囲気はまるで春の陽気のように穏やかで温かく、
丁寧に世話をされた花はどれも美しく輝いていた。
せっかくだし何か買って帰ろうかと店内を見渡して、
ふと、表にあった張り紙に書いてあった言葉を思い出した。

『大切に想う誰かのために、いつもは言えない気持ちを込めて
お花を贈ってみませんか？』

　大切に想う、誰か。
そう考えた時、冴来は自然と一人の男性の姿を思い浮かべていた。
いつでもとびきり優しくて、雪解け水のように純粋な人。
冴来にとっては、溶けない氷のように頑なな心をいつの間にか溶かしてしまう、
暖かな安らぎを与えてくれる人だった。
彼になら、花を贈るのもいいかもしれない。
確かに唐突ではあるけれど、彼も花は好きだと言っていたし
いつもは言えない気持ちをこめて、と書かれているのだ。
伝えたい気持ちも、伝わらない気持ちも、まとめて花に託してみるのもいい。
もしも受け取ってもらえなければその時は、自室に飾って眺めるまでだ。
そう心を決め、冴来は彼に贈るフラワーアレンジメントを作り始めたのだった。

　サイズは、部屋に飾っても邪魔にならないくらい。
ピンクの薔薇を中心に置き、釣鐘草、かすみ草で周りを飾る。
花はいつか枯れてしまっても、彼への想いは永遠に変わらない。
大好きで大切な彼に、幸せな日々があるよう、感謝と祈りの気持ちを込めて。
そして、これからも一緒に楽しい日々をすごせますように、と。
いつもは言えない大切な気持ちを、可愛い花とその花言葉に込めて、
フローリストさんと相談しながら丁寧に選んでいくと、
一本選ぶたびに、思い描いた彼の笑顔がよりリアルに、現実に近づいていく気がしてくる。
アレンジメントを作り終えるころには、お礼を述べる声まで聞こえてきそうなくらい、
彼が喜んでくれる笑顔が確かに思い浮かんだ。
「できた！」
　大きすぎず、小さすぎず。
可愛らしく上品なアレンジメントは冴来の理想通りの出来栄えだ。
最後に、フローリストさんはアレンジメントの籠の把手に、
贈り主を示すような、小さな青薔薇のペーパーフラワーを添えて冴来に手渡した。
冴来はアレンジメントの籠を大切に抱きしめて店をでる。
渡せると良いな、喜んでもらえるかな、と、不安と期待に胸を高鳴らせながら
歩き出した冴来の腕の中、小さな青薔薇が静かに揺れていた。
　

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