オーダーメイドフラワー｜リアクション

オーダーメイドフラワー

「すっ……ごーい」
　椿美咲紀は、ずらりと並ぶ花々に思わず目を輝かせた。
自身も花を好み、庭にもたくさんの花を植えて育てている美咲紀を出迎えたのは、
店内にずらりと並んだ花々の幅広い品ぞろえだった。
　庭に植えた花々は、手塩にかけて育て上げ、イチから愛でているぶん別格の可愛らしさだが、季節に合った花にしか出会えないのが寂しいところ。
その点、花屋の花ともなれば、温室を使ってわざと時期をずらした花を楽しめる。
四季折々を楽しむのも、いつでも好きな花を観賞できるのも、
花好きとしてはどちらもありがたいことだ。
しかもプロのフローリストが作るアレンジメントは、一目でわかるほど洗練されている。
お願いする機会があれば頼んでみたいと考えていた美咲紀は、
外に貼ってある貼り紙を見て一も二もなく飛び込んだのだった。

　外の貼り紙には大切に想う誰かへと書かれていたが、
大切に想う相手はなにも他人ばかりとは限らない。
夢や目標に向かって前進する自分を大切に想うことも、他人を思いやるのと同じくらい大事なことだ
……というわけで、美咲紀は店内にいたフローリストさんに、
自分のためのフラワーアレンジメントを作ってもらうことにした。
まずは、アレンジメントを飾って眺めたくなる場面を考える。
原稿の執筆中に、ふと目に入って心和むような、そんな癒されるアレンジメントがいい。
鮮やかで元気の出る色合いはもちろん、芳醇な香りも楽しめればより執筆作業も捗るというものだ。
　白やピンク、オレンジを基調とした、淡く明るい色の花を中心に、
ガーベラ、トルコキキョウ、バラなどをチョイス。
バラは淡い緑色のものも少し混ぜて、彩りに奥行きを添えていく。
美咲紀本人は、白い花の王道である百合も選びたかったが、
百合は猫への危険度が他の花とは段違いだと聞いて泣く泣くあきらめることにした。
　サイズはいかがいたしましょうか、と問われると、少し迷ってしまう。
始めは深く考えず、小さいものをとも思ったが、疲れた目に癒しがほしいシーンでは
むしろたっぷりとしたアレンジメントの方が視線を散らせてよいかもしれない。
美咲紀が考える癒しのシーンは、原稿の執筆中はもちろん、
最近お気に入りのブラウザゲームをプレイしている最中や、
関連のアニメや舞台のＤＶＤのチェック、それからなにをとは言わないが
関連のアレやコレを熟読するような時だ。
むしろやや大ぶりの、テーブルやサイドボードに飾るようなサイズ感でお願いすると、
フローリストさんは慣れた手つきですいすいと花を選び、丁寧にオアシスに活けていく。
見る見るうちに出来上がってゆく自分専用のフラワーアレンジメントに、
美咲紀は期待で心が浮き立ってゆくのを感じていた。

　お待たせしました、と声をかけられ、手渡されたアレンジメントは
美咲紀の秘密の書斎に華やかな彩りを添えてくれること間違いなしの
素晴らしい出来だった。猫の肉球の模様がついたリボンまで飾られている。
フローリストさんにお礼を言って受け取り、
とてもきれい、これからよろしくね、と微笑みかければ、花達の輝きも一層増したように思える。
ついでに、フローリストさんにアレンジメントを長持ちさせるコツを聞いて
美咲紀は両手でアレンジメントをしっかりと抱え、機嫌よく『フィオーレ』を後にしたのだった。

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