オーダーメイドフラワー｜リアクション

オーダーメイドフラワー

　青山絢は店の外の張り紙を見ると、迷いなく店内へと足を進めた。
こんな花屋を、ずっと探していたのだ。
店の中の煌びやかな花々たちにも一切迷うことなく、
まっすぐに自分の探していた花を見つける。
あった。カーネーションの花。……今日は、母の日なのだ。
フラワーバケツには、赤、オレンジ、ピンク、白など、
色とりどりのカーネーションが揃っていた。

「すみません、カーネーションを花束にしてほしいのですが」
　そうその場にいたフローリストさんに声をかけると、
彼女は快諾し、どのカーネーションになさいますか、と尋ねる。
　白のカーネーションはあえて見ず、
絢が選んだのは、赤、オレンジ、ピンクのカーネーション。
明るく華やかで心踊る色合いが、見る者の目を楽しませるのだ。
亡くなった母は、オレンジのカーネーションが好きだった。

　ブーケを作ってもらっている間、絢は亡き母のことを考える。
もう四年も前のことだというのに、彼女の記憶はいつでも手に取るように鮮明に思い起こすことができる。
それは、思い出す、というよりも、いつもの思考の延長上。
忘れたことなどないほどに、絢はいつでも母のことを想っていた。
フラワーバケツに残された白のカーネーション。
亡き母を偲ぶ意味を持つあの花を、絢はまだ手に取る勇気が出ない。
いつかこの花を自ら手に取る日が来るのかどうか、
それはまだ絢自身にも見えていなかった。
けれどいま、今日だけは、懐かしい母の思い出にゆっくりと浸っていたいのだ。

　出来上がったブーケを受け取って、ありがとうございます、と礼を言う。
母の日のプレゼント？　と悪気なく答えたフローリストさんの笑顔が眩しい。
「はい。母の好きなオレンジのカーネーションを、お墓に供えたくて」
　そう答えれば、フローリストさんの笑顔が一瞬揺らぐのがわかった。
絢はそれ以上は何も言わず、淡い笑みを浮かべ会釈して店を出る。
作ってもらったブーケを抱え、寝子電に乗って母のお墓へ。
街の喧噪からはほど遠く、いつ来ても静かな墓地に、母は静かに眠っていた。
「お母さん……今日は母の日だよ」
　そう声をかけ、墓に花を供えると絢は静かに手を合わせた。
爽やかな五月の風に、ブーケに巻かれた黒い音符模様のリボンが揺れる。
涙はこぼれる気配もない。
本当に悲しい時ほど涙は出ないものだと、絢は痛いほどに知っていた。

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