■ぎぶみーはにー！
「なんで太刀魚が武器になんだよォーッ！」
　カフェテーブルの上昇気流。熱気を吹き出し立ち上がった水守 流をご想像頂きたい。
　彼が担ぎ上げたトウモロコシ型ガンランス『トンガレコーン』もご想像頂きたい。
「お前が言うんじゃねェーッ！」
　カフェテーブルの粉塵爆発。お砂糖の瓶をひっくり返して身を乗り出す宇佐見 望月もご想像頂きたい。
　太刀魚型両手剣『ウオノ太刀極み一本』もご想像頂いて、はい、そうですそれです！
　びったんとテーブルに叩き付けるおさかな。っていうか両手剣。
「太刀魚はいいだろ！　太刀って入ってんだから！」
「名前が入ってりゃいいのかよ！　形がどう見ても剣じゃねーだろ！」
「トウモロコシだってガンランスにゃみえねーだろー、が、よ！」
　ヒートアップするネタ武器ハンターたち。
　周りが止めに入らないのは、彼らがいつもこの手の問答をするからである。
「俺はな、ただ強いだけの武器には飽き飽きなんだよ」
「楽しくて強い武器を自分の手で作ってこそのハンターだ」
「つまり！」
「つまり！」
　アームレスリングのように手を握り合う二人。
「「俺たちこそが真のハンターだよな！」」
　はーっはっはといって肩を抱き合い、ジョッキ（麦茶）で乾杯し、腕を組んでぐるぐる回って飲み交わす。
　二人のやりとりはここまでワンセットである。
　ワンセット終えてようやく落ち着いた流たちは、すっと椅子に腰掛けた。
「ところでせんどーはどうした」
「そういや遅いな。いつもは時間を守るやつなんだが」
　一緒にクエストへ出る約束をしていた千堂 結がまだ来ないことに、二人はかくんと首を傾げた。
　しかしこんな言葉がある。噂をすれば影といって――。
「たいへんだニャー！」
　扉をバーンと開けて金髪美少女ネコが現われた。
「どうしたせんどー！　金髪になって！」
「こんなに背が小さくなって」
「こんな猫耳はやして！」
「知らない人と間違えるのやめるのデス！」
　しゃらーと言いながらダブルネコパンチをくらわせる金髪美少女ネコ、もといトワ・E・ライトフェロゥ。
「すまねえ、この流れだとせんどーが来ると思ったんだ」
「で、お前誰？」
　マイペースにいじってくる二人に念のためもう一発ネコパンチを食らわせてから、トワはテーブルに飛び乗った。
「ニャルファルクがでたニャ！」
「「ニャルファルク……だと……！？」」
　急に劇画調になって身を乗り出す二人。
「知っているのか流！」
「ああ……」

　煮或腐或苦。
　古代中国で生み出された暗黒武術。
　その早すぎる一撃は川を沸騰させ魚を煮上がらせ、毒を含んだ手刀は大熊の肉をも一瞬で腐らせて死に至らしめるという。
　――にゃんめい書房より。

「……嘘だろ？」
「……嘘だ」
　ぱららららっとノートをめくる流。
　開いたページにはネコドラゴンの一種とみられるオメガ級モンスターが描かれていた。
「かつて蜂蜜を採取しにいった時のことだ。俺はこのニャルファルクに襲われた。俺なりにうまく立ち回ったつもりだが、奴のマタタビミサイルをうけたのが致命傷となったんだ。マタタビの香りにやられたネコたちが俺に群がり、身動きがとれないところを……クッ、状態解除のアイテムさえ持っていれば」
「そうか……っていうか早く言え」
「そのニャルファルクなのデスニャ！」
「お前も難儀な口調してるな」
　右へ左へ巧みなツッコミをいれる望月。
　トワは両手をぶんぶん振り回して話を続けた。
「仲間がマタタビにやられて凶暴になってるのデスニャ。ニャルファルクを倒して特効薬を手に入れて欲しいニャー！」
「ふむ」
　万歳するトワ。
　望月はシリアスな顔になった。
「で、報酬は？」
「……」
　トワは無表情で顔だけ向け。
「トワ、ニホンゴ、ワカラナイデス」
「嘘つけ」
「コムギコカナニカデス」
「そういう口調じゃなかっただろお前」
　両サイドからがっしり掴まれ、金額交渉に持ち込まれるトワであった。
　生々しいパートはチョキチョキしちゃいましょうねー。

　げっそりやせ細ったトワを連れ、オメガ地方の一角へやってきた。
　熊のように蜂蜜をため込むニャルファルクは、近隣一帯を蜂蜜たっぷりの土地に変えていくのだ。
　それゆえ蜂蜜を求めてやってくるハンターも多いが……。
「ま、俺たち三人組がいればニャルファルクも恐くないだろ」
「だな。流と俺、そしてせんどーの三人がいればな！」
　な！　と言って振り返る二人。
　そこには誰も居なかった。っていうか人型の点線が点滅していた。
「その人なら途中ではぐれマシタニャ」
「せんどおおおおおおおおおおおおお！」
「さてはおまえアクション送りそびれただろおおおおおおおおおおお！」
　膝を突いて地面を叩く二人。
　トワが優しさ百パーセントの顔でぽんと二人の肩を叩いた。
「トワが手伝ってあげるから元気になるのデス」
「いやお前依頼主だけどね」
　とかなんとかやっていると突如として地響きが起きた。
　ただの地響きではない。
「この感覚、経験があるぜ。ニャルファルクだ！」
　ガンランスを構えて後退する流。
　トワと望月もそれぞれの武器を構えて円を作った。
「どこからくる。前か、後ろか？」
「いや――空デス！」
　カッと見上げるトワ。その直後、巨大モンスターニャルファルクが上空から落下してきた。
　ずどんという大地の揺れ。
　よろめきそうになった流はしかし、気合いで踏ん張って連射レバーを回した。
「俺が敵を引きつける。その間に奴をぎゃああああああああああああ！？」
　何かまるいボールのようなものが流に直撃。ばしゃーんした液体から独特の香りが広がった。
「く、しまった。マタタビ弾だ！　ネコまみれになっちまう！」
「任せるのデス！」
　トワは特別な笛を取り出すと、不思議な音楽を奏で始めた。
　しゅわしゅわと消えていくマタタビ臭。
「なんてこった。音楽で臭いが取れるとかどういう物理現象だよ」
「細かいこと言わないでクダサイニャ！」
「が、ナイス囮だぜ！」
　後ろに回り込んでいた望月が太刀魚っぽい太刀をイチニノサンで叩き込む。
　サンの所でローリング回避。
　振り向いたニャルファルクのネコパンチを寸前のところで回避した。
「ふう、あぶねえ！」
「しっぽがこっちに向いたのデス！　今こそオトモネコの力を見せるとき、ニャアアアアン！」
　トワはネコパワー（ＮＰ）をマックスにして突撃した。
　突撃して、ニャルファルクのしっぽにペシンッてされた。
「ニャアアアアアアアアン！？」
　回転しながら遠くのお空へ飛んでいくトワ。
「トワアアアアアアアアア！」
「はいデス！」
　ぼこんと足下の地面から飛び出すトワ。
「うわあなんだその移動方法！　きもちわる！」
「気持ち悪いとか言わないでクダサイニャ！」
「しかしナイス囮だぜ！」
　さっきの望月みたいなことを言って、流はガンランスから特殊弾を発射した。
　ポップコーンのようにはじける弾がニャルファルクの眼前で爆発。
　ひるんだニャルファルクを前に、トワが自前のトランポリンを設置アンドジャンプ。頭の上に飛び乗ると、ぽこぽこと殴り始めた。
　振り払おうと暴れるニャルファルク。
「今だ！」
　カッと目を光らせる望月。
　太刀魚パワー（ＴＰ）をマックスにして突撃。フルスイングによってニャルファルクのほっぺにびたーんした。
「にゃん！？」
　へんな悲鳴をあげ、ぶっ倒れるニャルファルク。
　額の汗を腕でぬぐい、望月は清々しく笑った。
「討伐完了。そして――刈り取りタイムだ！」
「オーッ！」
「ニャー！」
　それぞれナイフを取り出して、三人は飛びかかる。

　ハンターたちの日常は続く。
　広大な大陸の中で、命の輪を回しながら。
　明日もまた、狩りに出かけるだろう。