イースター・イースター｜リアクション

イースター・イースター

「美咲紀、一寸、寄って行かないか？」

　流が四苦八苦していた頃と同時刻、シーサイドタウンの往来で足を止めた男女が一組。その片方、八神修は可愛らしいメニューのサンプルと、その隅に置かれたうさぎの人形を見て、自らが飼っている白のネザーランド・ドワーフを思い出す。家でいい子にして待っているだろうそれの姿を思い浮かべて修はほんわりと心を暖かくした。先に足を踏み出しかけた椿美咲紀は修の声に足を止めて、修の隣に立ちディスプレイを見る。

「美味しそうなのです。いいのですよ！」

　と、了承も取れたところでと二人は《Délicieux!》へ入っていった。ドアに備え付けられたベルが鳴る。駆け寄ってきた店員、時子はほんわかと見る人を和ませるような笑顔を顔に浮かべて口を開く。

「いらっしゃいませ。何名様ですか……？」

　二名。簡潔に告げられて、時子は二人を案内した。頭のうさみみとしっぽを揺らしながら歩を進める。席に着いた修と美咲紀は出されたメニューを開き、おすすめを訊いた。

「そうですね……こちらのオムライスがおすすめです。うさぎの形になっていて、かわいいです。お飲み物は紅茶やコーヒーなど……特にコーヒーは、ラテアートをつけることも出来ます」

　すこし照れながらも、仕事はしっかりと。時子は説明を終えると、

「お決まりになりましたらお呼びください」

　といって、ぺこりと礼をした。時子が離れてから、二人はメニューに視線を戻す。写真の中の料理に美咲紀は目を輝かせて。修はその時は一瞥するに留めて、その後は店内をぐるりと見まわして店員の頭にあるうさみみにほっこりと和んでいた。
　美咲紀の手でぱらぱらとページが捲られ、現れたのはうさぎを模ったケーキの写真。何とはなしにメニューの方を見てそれが目に入った修は、そのケーキの可愛らしさに惹かれるものの、男としてのプライドゆえに怯む。

「あっ、行き過ぎたのです……」

　戻されていくページ。修はケーキのページをちらちらと名残惜しそうに見ながらも、美咲紀のペースに合わせた。オムライスにステーキと、メインディッシュが並ぶページまで戻されたメニューに、美咲紀は指を這わせる。美咲紀が指したのはオムライスの写真だ。

「この料理は店によって出来が全然違うです。料理人の腕を示す良い指標なのですよ」
「ああ。ステーキも美味しそうだ」

　対する修は子羊のステーキを見ている。しかしもう一度メニュー全体を見て、こう言った。

「兎のステーキもあればよかったけど」
「兎を？　かわいそうなのです」
「そうだが……美味い物は美味い」

　じゅるり。唾を飲み込んで修は兎の肉を食した思い出を語った。獣肉の割には癖がなく悪く言えば淡白、よく言えば優しい味わいだ、と。しかしうさみみの店員が行き交う店内で憚られたのか、修はここで口を閉ざす。

「ソースは何かな」

　添えられた説明を読みながら、修は頼むものを考えた。