■最後の部屋へ
　残る敵はタートリアンのみ。
　最後の部屋の前で、バニレンジャー達は合流した。

　ちなみに月詠は逃げないよう縄で縛られ、人質であったあおいが様子を見守っている。
　月詠の構えていたビデオカメラは紫苑のライフルにより粉々となり、月詠さんは涙目だった。
　
　オクトパッシーの激しい攻撃を受けた悠月や碧南、彰尋に亮。
　月詠との戦いを終えた月は勿論、数多くの雑魚を攻撃したリリエルにも疲労の色が見えている。
「残る敵はおそらく、タートリアン一人です」
　皆を元気づけるように紫苑が言えば、皆の表情に気合いが戻る。
「行こう」
　月がそう言い、最期の重い扉を開けば。

　ピシッッ…！！　パチィンッッ！
　
　部屋に響く、鞭のしなる音。
　そして。
「あれぇ、誰かと思ったらバニー戦士さん達じゃん？ 随分遅くねぇ？」
　四つん這いとなったタートリアンを当然のように椅子とみなし腰掛ける、一人の黒バニーの姿。
「来島さんっっ！？」
　彰尋が思わず声をあげた。
　そこにいたのは、先にバニレンジャーを卒業していたと思っていた来島 アカリ――その人だった。
「なんだ、まだ正義の良い子ちゃんしてるわけぇ？」
「ど、どういうことですか？」
　リリエルが首を傾げる。目の前にいる藍色の美少女はどう見てもバニレンジャーの格好をしているわけで。
「バニレンジャーを卒業したと聞いていたのに……」
　記憶の中のアカリは、バニレンジャーに変身すれば涙目で恥じらい（それもまた可愛かったりするのだが）、出来ることなら変身を避けたいタイプだった。だが
「あはっ、むかーし味方だったからって、俺は容赦しねーからな？」
　鋭い鞭を振りながら、高圧的な笑みをみせる姿は『ザ☆女王様』
「さ、可愛い声で鳴いてみな！」
　振るった鞭のリーチが伸び、バニレンジャー達へと襲い掛かった。
　各々が飛び跳ね、その鞭を避ける。
「ははっ、俺の手を煩わせるほどじゃなさそーだな。ほら行け、カメ。俺の手を汚させる気？」　
　アカリはそれまで椅子の役割を務めていたカメ男から立ち上がり、カメの甲羅を思い切りハイヒールで蹴りつけた。
「ふぎゃっ。か、かしこまりましカメー」
　悦な表情と共にゆらりと立ち上がったカメ男、タートリアン。
　バニレンジャー達が身構えるや否や、首をひっこめピンク色の煙を吐き出した。
　すぐに充満するピンクの煙に。
「力が抜けてしまい……ます……」
　宙に浮いていたリリエルが、煙の影響を受け睡魔に襲われる。
「みんな纏めて眠ってしまうカメー！」
　更にモクモクとピンクの煙を発しながら、カメ男はバニレンジャー達に向かって突撃をしかけた。
「ひゃぁぁっ」
　碧南がすんでの所でカメ男を避ける。
　甲羅をコマのように使い、回転しながらぶつかってくるタートリアン。
　ピンクの煙はバニレンジャーの動きを鈍らせ、皆カメの攻撃を避けるのがやっとだった。

「はっはっは、無様だぜバニレンジャー」
　アカリの勝ち誇った表情に、苦い顔を見せる悠月。
「おい、おまえは変身しない気か？」
　顔を背ける悠月に。
「そうだよな、おまえはそーゆーヤツだもんな」
　アカリの挑発的な視線が悠月を射抜く。
「それじゃあ、カメ。そこの一般人さんから狙っちまいな」
「カーーーメーーー！」
　タートリアンの進行方向が悠月に定まった。
　向かい来るカメ男に見開かれる悠月の瞳。
　だが、次に映ったのは、バニレンジャーの背中だった。
「僕が、悠月君を護る」
　大事な友人の背中。
　目の前には、彰尋だけじゃない。
　フラフラの身体を奮い立たせ、月や紫苑、碧南、リリエルも立ちはだかった。
（皆……）
　悠月が息を飲む。
「女性を護るのは私の役目だ」
　そこに、亮が立ちはだかった。
（一部は男だ……）
　こっそりと彰尋は脳内で突っ込む。
　たなびく亮のマント。
　そして亮は息を止め、迫りくるタートリアンに対峙した。

　息を止めている今の亮は、ろっこん「鬼人の体」の力もあり身体能力が更に上がっている。
「くはははは、潰されてしまうカメー！」
「……ッ！！」
　亮はタートリアンから真正面からぶつかり合う。
　回転しつつ亮を押すタートリアン、それを両の手で全力で受け止める亮。
　ピンクの煙が徐々に減って行くのを確認した紫苑。
「よいしょ、です」
　紫苑がまたも己の胸元に手を差し込む。今度はライフルではなく、巨大な扇が出現した。
（ど、どうなってるの……！？）
　紫苑の四次元胸元に碧南が目を見張れば。
「そーれーー」
　ピンクの煙を巨大な扇で扇ぎ返す紫苑。
　攻撃に転じるチャンスだ、と月がタートリアンに己の影を放った。

「こざかしい！」
　月の影が波動となり、タートリアンに激しくぶつかれば
「ぐはぁっ」
　亮に気を取られていたこともあり、カメ男はバランスを崩し、ドシャンと倒れた。
　勢いよく仰向けとなったタートリアンに、空から注がれるのはリリエルのキャロット☆アロー。
「モゴッ！」
　タートリアンの口に巨大なニンジンがぶっ刺さる。
　月の影が広がり、タートリアンの手足を押さえ。そこに碧南と彰尋が拳や脚でタートリアンに連撃を加える。
「止めです」
　穏やかな表情で紫苑が亀の上に立ち。胸元から出した白のライフル銃の銃口を亀に向け。そしてリリエルに目線を送る。
「さぁ、止めです！ シャイニング　キャロットアロー―スペシャル！」
「おやすみなさい」
　迷いなくトリガーを引く紫苑と、光り輝く矢をカメ男に打ち込むリリエル。
「カ、カメェェェエエエエエ！！！！」
　叫び声と共に、タートリアンの身体はみるみるしぼみ、光となって消えるのだった。

「……ったく。つっかえねー雑魚」
　アカリは、そんなカメ男の最期に冷たい視線を送った。