新年度のはじまりはじまり。体育科編｜リアクション

新年度のはじまりはじまり。体育科編

「寝子高のアイドル・剣崎エレナとは私のことよ！」
　剣崎エレナが高らかに名乗りをあげていた。口上までは威勢が良かったが、彼女の成績は２回投げて３本のピンを倒しただけという、なんともリアクションに困るものだった。
「――少し、リラックスして投げたらどうだろうか」
　結城永遠が、剣崎にアドバイスを送っていた。
「俺も最初は全力投球していたんだが。慣れてきて、肩の力を抜いてみたら、コントロールも良くなったんだ」
　そうは言いながら、永遠もちょっと緊張していた。女性と話をするのはあまり慣れていないのだ。
「その言葉――。ありがたく受け取っておくわ」
　剣崎が高飛車な態度で言う。
「けれど、人にアドバイスを送るくらいなのだから、あなたの腕前は相当なものでしょうね！」
「いや……」
　実を言えば、永遠もボウリングはそれほど得意ではなかった。最初のうちは、クラスメイトがガターを出したあとで、続けてガターを出してしまい、クラスみんなで筋トレをすることになってしまったほどだ。
　３年１０組のメンバーが一斉に腕立てをはじめる光景は、なかなか珍妙だったなと、永遠は苦笑いを浮かべる。
「あなたの腕前、確かめさせてちょうだい！」
　なおも剣崎が期待のまなざしで見つめてくるので、引くに引けなくなってしまう永遠。どうしたものかなと思っていると、自分の出番が回ってきたので、とりあえずアプローチに向かっていく。
（ガターさえ出さなければ、御の字か）
　そう自分に言い聞かせながら、永遠は落ち着いた様子でボールを投げた。
　それが功を奏したのだろう。
　いい感じに力の抜けたボールは、キレイな軌道を描いて、１番ピンのわずかに横――ジャストポケットをえぐっていった。
　完璧なストライクだった。
（――よしっ！）
　永遠は思わず、小さくガッツポーズをしていた。その後で『しまった！』という顔になり、平然を装ってベンチに戻っていく。感情を表に出しすぎるのが、照れくさいのだ。

「ありゃあ。。。」
　音海なぎさがガターを出して、なんとも言えない表情をしていた。ちょっとがっくりした様子でピットを見つめている。
　しかしすぐに気を取り直すと、言い訳などは一切せず、罰ゲームの腕立てをこなしていった。真面目さは、なぎさの取り柄なのである。
　腕立てを終えたなぎさは、ベンチでくつろぐ永遠に声をかけた。
「あのさ、結城くん」
「音海か。どうした？」
「さっきストライクとってたよね」
「ああ」
「なにか、コツとかあるのかな？」
「うーん……。コツってほどでもないんだが……」
　永遠は「ガターさえ出さなきゃ良いくらいの気軽さで投げたら、たまたまうまく言った」と告げた。
「要は、肩の力を抜けってことだな。勝負もいいが、まずはリラックスだ」
「そうだよね！　ボウリングは楽しむのが一番だよ！」
　なぎさは納得した表情で、うんうんと頷いていた。

　永遠のアドバイスは、３年９組にとって追い風となった。
　リラックスモードになった剣崎となぎさが、立て続けにストライクを出したのである。
「やったぁ」
　ぴょんぴょんと、その場で小さくジャンプするなぎさ。待望のケーキが３年９組のクラスメイトに配られていく。
「おいしーね。まゆ先生の手作りケーキ」
「まあまあですわ」
　そう言いながら、もっと食べたそうにしている剣崎だったが、スタイル維持のために遠慮していた。

　どうやら敵に塩――もといケーキを送ってしまった永遠。しかし、本人はまったく気にしていない。
　美味しそうにケーキを食べるなぎさと剣崎の様子を、微笑ましげに見つめる永遠であった。

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