ホワイト・ティータイム｜リアクション

ホワイト・ティータイム

「今日はお茶会に来てくれてありがとうございます。お菓子を食べながらのんびりしましょう！」
　招待客が集まると部長の彩葉が立ち上がって席についた顔ぶれを見渡した。彩葉の挨拶が終わると上品な拍手の音が起こる。茶会の席に集まった人々は温かい紅茶でのどを潤しながら、部員の作った菓子の数々に目を輝かせた。
　周りの人がお菓子を食べ始めたのを見て、絢も何かいただこうと３段のケーキスタンドを見る。１段目がサンドイッチ、２段目がスコーン、３段目が桜色のクッキーとプチケーキだ。どれを食べようか迷って、絢はなかなか決められずにいた。
「こんにちは、青山さん。紅茶は好き？」
「こんにちは。ありがとう、いただけるかしら」
　控えめな調子で絢が頼むと、彩葉は「ほい！」と気さくに返事をして自分と絢の紅茶を淹れた。ティーカップから細い湯気がのぼる。
「砂糖はいる？　お菓子もぜひ食べてね！」
「ストレートがいいわ。いただきます」
　紅茶の香りを楽しんだ後、絢は３段目に乗っていたアラザンのプチケーキを口にした。銀色のアラザンで飾り付けられたものが、今日という日にふさわしい気がしたのだ。
　しばし無言で味わう。奥歯でかみ砕いだアラザンの甘さを紅茶で流し込んだ。
「さすがに製菓部だけあって上手ね。
　見た目も綺麗だけど、味もとても美味しいわ。本当はもっと素朴なものかと思っていたのだけど、とても本格的なのね」
「本当！？　実はそのプチケーキは私が作ったんだ。えへへ」
　彩葉が前髪の下で大きな瞳を見開いて喜ぶ。
「よかったら他にも食べてみて。こっちのサンドイッチはあそこにいる花厳君作で、このクッキーは鴇波ちゃんが作ったの！」
「どれも美味しそう。あの……高梨さんて１年生で部長なのよね」
「え？　うん、そうだよ！　お菓子作りが好きだから作っちゃった」
　活動的だな、と絢は内心感心する。演劇部である絢より彩葉の方が積極的なのがおかしくて苦笑した。
「青山さんもお菓子作ったりする？」
「自分ではあまり作らないけど、居候先の従妹がお菓子を作るのが好きなの。それで、この前のバレンタインでは無理やり特訓させられて気合の入ったチョコを作ったわ」
「バレンタインにチョコ作りかぁ。本命には手作りで送りたくなるよね。相手がおいしそうな顔で食べてくれたら最高だよ」
「ふふ、そうね。チョコ作りなら少し自信が付いたわ。機会があれば別のお菓子を作るのもいいわね」
　当時の特訓風景を思い出したのか絢は苦笑気味に話した。
「このプチケーキは結構作りやすいよ。ホットケーキミックスを使うから意外と材料も少ないんだ～」
「そうなの？　とても手間暇かかったものに見えるわ」
「えへへ。お菓子作り頑張ってるからそんな風に言ってもらうと嬉しいよ。製菓部の活動ももっと広げていきたいなぁ」
　と言っても具体案は今のところないんだけど……と言って、彩葉は紅茶で唇を湿らせた。
「私たちももうすぐ２年だね。青山さんは目標とかある？」
「……私は――」
　しばし言葉を口の中で転がして絢は視線を窓に逃がした。

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