【期末テスト】赤点？満点？？春風、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？春風、四日間の死線＜物語編＞

●Ｒｅ

　片やロベルトたちと別れたオルカと悠月は、一路、オルカの家へと向かった。
「Evviva!　なんて長い１週間だったんだろう。お預けでフラストレーションがたまってたんだ」
　オルカは愛しの相棒に抱きつく。
「ああ早く歌いたい！」

　玄関をくぐってすぐに制服を脱ぎ捨て、レッスン着に着替える。
　逸る心を抑えながら、軽くアップをこなして曲の練習に入る。
　いつかの舞台とは違う、互いが対等な歌――騎士２人が戦うような、２人で高めあう歌だ。
　悠月の高く澄んだ歌声と、オルカのハスキーな歌声が、剣を交え合うように挑みあう。
　ふわふわと熱が上がる。
　悠月はオルカの音に負けない様に力強く歌い、オルカは悠月を強く感じてテンションを上げてゆく。
　交差する度オルカの熱で焼ける様だ、と悠月は思った。
　同じ鼓動の生き物になったような感覚に興奮する。彼を感じる。お互いにだ。
　お預けを喰らっていた１週間と言う時間が、快感を加速させる。
（嗚呼、愛しのMio Destino!（俺の運命！）)
　ぞくぞくする。

　曲が終わる。
　興奮で息が上がっている。
　目が合う。
　オルカはひとつ息を吐いて、快感をそのまま言葉にする。
「スッゲー最高――……」
　声が甘い。耳朶に響いて、新たな快感を呼び起こす。
「だけど悠月、」とオルカは続けた。「サビ前のステップ１個忘れて強引につなげただろ」
　目線を送れば、悠月は冷静にいい返す。
「お前こそＢメロ２小節目、音がフラついていたぞ」
「１番？」
「２番」
　そのときオルカは、悠月の冷静を装う琥珀色の瞳の奥に、自分と同じ熱を見つけて歓喜した。
　――こういうとこホンットたまんないよね。
　思わずふっと笑みが漏れる。
　悠月も同じタイミングで笑った。
　――ああ、お前も同じ気持ちか。
　言葉には出さなかったが、感じたことは通じ合った。
「ははっ、もう一度歌おうか悠月」
　さっきより少し落ち着きを取り戻した悠月が頷く。
「ああ、もう一度」
　息を吸う。同じタイミングで。響き合う。声と声が。

◇

　こうして二人にとって満足のゆく練習ができた。
　終わる前に軽く体をほぐすために柔軟をする。
　悠月は、伸し掛かってくるオルカに背中を押されながら彼の声を聴いている。
「テストが終わったなら春休みが来るんだっけ。い～っぱい練習しよう」
「春休みか……いや、悪いが、おそらく休みの間はあまり練習できない。家に……帰る必要があるからな」
　悠月の返事が珍しくぼんやりとしていたので、オルカは違和感を感じた。
　実家？　まだ突っ込まない方がいいだろうか。
　ああ、でもこのままも面白くない。
「もし歌いたくてたまらない気分になったら、いつでも呼んでよ。実家でもなんでも会いに行くから」
「……ありがとうオルカ」
　悠月は片足に頭を擦りつけるような体勢のまま、礼を言った。
　家に帰る。そのことを思うと息苦しかった。長男として家を継ぐことを求められて生きてきた。けれど自分は歌いたい。その葛藤が悠月を締め付けてきたが、オルカの言葉に少し救われた気分だった。
　もしかしたら涙ぐんでしまっていたかもしれない。
（……顔が見えない体勢で良かった）
　オルカにそんな顔は見せられない。
　彼に弱いところは見せたくない。
　彼とはただ、歌っていたいのだ。
　魂が高く上るほどに、真っ白になれる世界で。