【期末テスト】赤点？満点？？春風、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？春風、四日間の死線＜物語編＞

●勉強！　青春！　応援しちゃうぞ

　テストまで指折り数え始めたある休日の午前中。
　自習する学生でいっぱいの図書館。その片隅に、カリカリと鉛筆を走らせる七音侑と、明るい色のサラサラヘアを弄りながら、時折、侑の質問に答える三谷賢二の姿がある。
　賢二はマタ大の二年生。侑にとって賢二は知り合いの知り合いだったが、近頃縁あって、こうして勉強を教えてもらう機会を得た。
「一応大丈夫だとは思うけどお母さんからはもう少し上を目指しなさいって言われちゃったし、もしかしたら心配されすぎて寮生活も手放さないといけなくなっちゃうかもしれないから、がんばらないと！」
　という侑に対し、賢二は冷静なもので。
「見た感じ、そこまで危機感はないと思うけど、ま、大船に乗ったつもりで任せてよ。こう見えても俺けっこー頭いいのよ？　これでも中高は成績上から数えた方が早い位だったからね☆」
　その言葉通り賢二の教え方は分かりやすかった。
　賢二にとっては何も苦はない。いい教育を受けさせてくれる家だったので、幼いころから成績は悪くなかったのだ。もっとも成績重視な考え方は嫌いだったし、反発もしたけれど。
　そんな賢二に問題の解き方のみならず暗記のコツなども伝授してもらって、侑は昨日より格段に頭がよくなったような気がした。とはいえ人間の集中力はそう長く続くものではない。
「さすがに疲れてきたにー」
　２時間を過ぎると、侑が顎を机にくっつけてへばるシーンが増えてきた。
「あらら、さすがに頭がパンクして来ちゃったかな？　じゃ、ここらで休憩にしてカフェでもいこうか」
　賢二の提案に、侑はパッと目を輝かせる。
　問題集を鞄に詰め込むと、いざお昼休憩へ！

「ん～～っ、甘い物はやっぱりいいにー♪」
　図書館近くのカフェで、生クリームと苺の乗ったパンケーキを頬張りながら、侑は女子高生らしく溌溂とした頬を緩ませる。賢二は甘くないキムチソースのパンケーキと珈琲を頼んだ。キムチとパンケーキの組み合わせは思いのほか相性がよく美味だった。口元を拭い、珈琲を一口含んで、幸せそうな侑を見遣る。
「で？　バレンタイン、彼とはどうなったの？」
「うにっ！？」
　唐突な質問に、侑は喉を詰まらせた。慌ててコップの水を飲み、ごくんと喉を鳴らして生クリームを胃の中に流し込んでから、賢二をちらり。
「ミタニンさんにもアドバイスもらってたし、ちゃんと告白して恋人になれた、にー」
「お！　やったじゃん！」
「でもね、」
　そこに至るまでいろいろあったのだ、と侑はつっかえつっかえ話して聞かせた。
　彼の方からフライングで告白があったこと。告白の意志は固めていたはずなのに、想定外の出来事に戸惑ってしまったこと。でもやっぱり想いを伝えずにはいられなかったこと。そうしたら……彼が、抱きしめてくれたこと。賢二が聞き上手だったので、侑は、彼とのこれまでを洗いざらい喋ってしまった。
「へー……それは彼も大胆だねぇ。侑ちゃん、がんばったなー♪」
　賢二は、自分のことのように嬉しそうに笑って、侑の髪をくしゃくしゃ撫でる。
　カンペキに、妹に恋人ができたことを喜ぶお兄ちゃんの顔だ。
「あーもう甘酸っぱいなぁ、いやー青春ですなー」
「で、でもあのときのことを考えると、もうなんだか分からなくて恥ずかしくて嬉しくて勉強どころじゃなくなっちゃうんだにー！！」
「あはは、その反応可愛い、ほんと初恋だったんだねー」
　初恋、だったのだ。林檎みたいにほっぺたが赤くなっているのが自分でもわかる。
　賢二はそんな侑に片目を瞑ってみせる。
「大丈夫、そのうちどうってことないくらいに慣れちゃうからさ」
「そ、そうかなー。慣れる気がしないにー」
　林檎みたいなほっぺたのまま、侑はむくれた。
　それから急に立ち上がって、賢二の手をむんずと掴む。
「い、今はそんなことよりテストに集中！　留年なんて嫌だし良い気持ちで答案受け取って会いたいもん！　ミタニン先生、ご指導よろしくお願いします！」
「よし、その意気だ。続きもがんばっていこうな！」

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