猫鳴館、笑うべからず黒猫の狂嵐｜リアクション

猫鳴館、笑うべからず黒猫の狂嵐

● 黒猫サンと、摩天楼と格闘する少女

　黒猫サン。
　彼らは年度末の猫鳴館大掃除をしっかりと執行するためのお仕置き執行人である。
　そしてここに、狭くて薄暗い部屋でモニターを見つめる二匹の黒猫サンがいる。
　モニターの中には永遠の忠告に従って、真面目に掃除に取り組む彩と綾花の姿が映っている。
「おっしい。もうちょっとでアウトだったんだがねぃ」
　小さいほうの黒猫サンが、キシシと笑う。猫鳴館の中でもとくに悪戯好きな例の彼である。名は――伏せておこう。よくもまあ手の込んだことに、この黒猫サン、館中にカメラを仕込んで、皆をくまなく監視しているのであった。
　と、大きいほうの黒猫が、別のカメラの映像を指さす。
　カメラは、とある女子を捉えていた。

「うぅむ……素晴らしすぎるこの摩天楼、どう手を付けたらいいだろうか」
　白衣に眼鏡に黒いスパッツ。おなじみの格好をした伊賀解理は自室で腕組みをして考えている。
　目の前には本や物が見事に積み上がった一角がある。
　これ知ってる。こういうブロックタワー崩しのゲームあるよね。いい積みっぷりだ。僕って天才かな！？
「……いやいや」
　と首を振って。
　この機にこのタワーを処分したいのだ、と解理は自分に言い聞かせる。
「チマチマやるより一気に出して一気に片付けたほうが効率的なはずだ！」
　が、改めて自分が作った摩天楼を見つめ、困ってしまう。
「なんだか無駄に緻密に積み上がってるせいで下手に手を出すと崩れ落ちそうな感じだ。ちくしょう、これを作った時の僕め、恨むぞ」
　セオリー通りまず上から……は届かなかった。
　じゃあ中段……も抜いたら落ちてきそうだ。
　じゃああえて下段から……とも考えるが、さすがにシヴァ神の通った後の如き惨劇を見る羽目になるか。
「いや待てよ。脚立を借りてきて上から取るというのはどうだろう」
　それはなかなかいいアイデアに思えて、脚立を取ってくる。
　さて、だ。
　お次は、どれから下すかだ。
「よし、紙とペンで解体する順番を決めよう！」
　解理は解体計画を立て始めた。
「この本を取って、それからあのプラモの箱を……いやプラモの箱を先に取るほうがいいか？」
　などと考えているうち、なんだか目の前の摩天楼が、非常に解き甲斐のあるパズルのように思えてくる。中段以下は細かいものも多かったりして、計画はより綿密に、より繊細さを帯びてきた。
「おぉ、これは楽しくなってきたぞ！」
　ははっ、と笑いを漏らした、その時だった！

「デデーン！　伊賀はん、アウトー！！」

　黒猫サンが現れた！
「掃除してない上に笑ったね？　罰ゲームだべー！」
「……げぇ！　黒猫サン！？　ま、待つんだ！　僕はこれから！　これから作業するから！」
　慌てて脚立に上る解理。だが、黒猫サンに引きずり降ろされる。
「わあ、スパッツを引っ張るな！　脱げるだろう！」
「それもまたよし！」
　黒猫サンは一片の容赦もない。
「笑ったり掃除しないヤツは、お仕置きだべーー！」

「う、うわあああああ！！！」

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