人生の転換期｜リアクション

人生の転換期

☆新しいこと、始めます！

「春ですわね……んー何か新しい事を始めたいですわね」
　寝子高１年の上下左右は、そんな気持ちに駆られていた。
「と、言っても何かありましたっけ？」
（私がやることと言えば、絵を描くか楽器を演奏するか散歩をするか……そのぐらいですわ）
　もれいびになった影響か普通に歩いたり走ったりできるとはいえ、左右は生まれつき足が悪く杖を愛用している。
　過度な運動をすると足に力が入らなくなるので体育が苦手だ。
　だが過度な運動でなくても、新しいことはあるはずだ。
「んんんーなにかーありませんかー」
　ふらふらと街を歩いていると、壁に貼ってあるチラシに目が留まった。
「こ、これですわ！」
　左右は嬉しそうに目を輝かせる。
　チラシの内容は求人情報だった。
『アルバイト募集！　アットホームな職場です！
　　経験は問いません！　短期でも長期でもＯＫ！
　　　学生さん歓迎！　時給～～～』
「あるばいとを始めてみましょう！　職場体験はやったことがありますわ、働くということは人生の中で大切なことですのよ！」
　生まれも育ちもお嬢様な左右は、働くことに憧れがあった。
「さっそくこのアルバイトに応募してみましょう！」
　善は急げ、時給の多寡を気にすることもなく躊躇なく連絡先に電話をかけ、面接にこぎつけた。

　応募したアルバイトはとある事務所の雑用だった。
　掃除や洗濯をするのが主な仕事である。
　シーサイドタウンのその事務所は数階建てのビルの１階にあった。
　衝立で仕切られて、ネットカフェのような雰囲気……と言っても左右はネカフェを知らなかったが、大いにワクワクした。
　バイトはもちろん初めてだったが、経験は問わないとの言葉通り、左右はあっさり採用された。
「頑張って働きますわ～」
　エプロンをして三角巾を頭につけて、教えられた通り仕事を始める。
　事務所の名は『寝子島探偵事務所』。
　面接の時「探偵じゃなくていいんだね？」と聞かれ、迷わず頷いた。
　暇なときは２階のダーツやビリヤードなどの娯楽設備で遊んでもいいらしい。
　けれど掃除の仕事も洗濯も、丁寧にやればやることはたくさんあって。
「働くのって楽しいですわ～」
　左右は普通なら地味な仕事に思えるだろうこのお仕事を、素直に楽しんでいる。

　意図していなくても、この事務所は左右に新しい出会いをもたらしてくれるだろう。
　けれどそれはまた、別のお話……

　