人生の転換期｜リアクション

人生の転換期

☆交換日記

　夜、桜花寮の自室で、恵御納夏朝は交換日記を取出し鍵を開けた。
　交換日記の相手は自分の別人格【夏夜】。
　二人は同時に存在することが出来ないので、意思の疎通をするためこんな方法を考えた。
　のんびりやで子供っぽく内向的な夏朝に対し、【夏夜】は冷めた感じで気紛れ、現実主義だ。
　夏朝が辛い過去をごく一部しか思い出せないのは、その部分を夏夜が持ってくれてるかららしい。
　夏夜は少し自己中だがかつてより冷徹さは大幅に減り、夏朝の事は大事に思ってくれている。
「……あれ、付箋ついてる？」
（夏夜ちゃんが付けたのかな……？）
　果たして、付箋の所を開けたら夏夜の文があった。

＜僕が１人で決めた事
　黙っておこうかと思ったけど
　夏朝にも伝えておこうと思う＞

＜夏朝と僕の、分離の願いが叶うなら
　夏朝の傍で支えよう＞

＜叶わないなら
　卒業までには……統合を＞

「高校卒業までに……分離か、人格統合……」
（急だよ、勝手すぎる）
　とも思ったけれど。

　分離は、元々夏朝の願いだった。
（急でも勝手でもない、よね……）
　叶うか解らない願い抱え、二重人格に決着つけないまま高二になろうとしている。

　切望していた願いだったのに、何故か「叶うと良いな」位の気持ちになってるけど……
（心配してくれてるのかな……このままじゃまずいって）

　そう思いページをめくる。

＜追記：
　高２の間に進路と将来もある程度決めておく事
　できれば前半……夏の終わりまでが良い＞

＜卒業後
　僕がいてもいなくても
　君が全力で進めるように＞

＜……不思議な事が殆ど起こらない日々に戻っても
　『普通の』生活を満喫できるように＞

「進路……僕の、将来……」

（そういえば将来の事、殆ど考えてなかった）
　いろんな事件が起こる寝子島では、退屈することはない。
　可愛い猫さんをもふったり、日々の騒動に追われたりで、ゆっくり立ち止まって考えることをあまりしなかったかもしれない。
「僕は……何に、なりたいんだろう？」

　高校卒業まであと二年。
　答えを出すには短く、悩み続けるには長くもある。
　答えははっきりしないままに、夏朝はペンを取り、返事を考えるのだった。
＜ありがとう……夏夜ちゃん＞
　君はどうなの、なりたいものとかないの？
　心の中でつぶやきながら、夏朝は自分の好きなもののことをぼんやりと考えていた。
（答えを出すためには、何が必要なんだろう？）
　文章はなかなか進まないまま、静かに夜は更けていく。
　

　転機を迎えても、人生の先は、まだまだ見えない。

　

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