人生の転換期｜リアクション

人生の転換期

☆思わぬオファー

「今年の春休みは完全に仕事でつぶれたわね……」
　木天蓼大学社会学部２回生の城山水樹は、スケジュール帳を確認しながらつぶやいた。
　去年暮れ、ファッション誌の読者モデルから正式な専属モデルになった。
　先月末に発売された４月号の表紙は彼女が飾っている。
　読モ時代からそれなりに注目されていたが、モデルはあくまでもバイトで、３年になったら引退するつもりだった。
　就職活動はこのあたりから本格化しないとならないし……。
　でも専属モデルとなり、仕事量が読モのころと比べて格段に増えてしまっていた。
（明日は都内のスタジオで撮影予定ね。やっと春だというのに夏服か……）
　この仕事をしていると季節の感覚がずれてしまう。
　そんなことを思いながら、約束をしていた友達のモデルの子の家に泊まりにいく。
　都内で仕事の場合は大抵彼女の家に泊まることになっている。
　社交的でノリがよい水樹は、あちこちに泊めてくれる友達がいるのだ。
「またお世話になるね～」　
「いいよ、今度寝子島で美味しいものごちそうになるからね」
「任せといて」
　
　翌日は朝早くからの仕事だ。
（やっと寝子島に帰れる……）
　仕事をこなした水樹は、ほっと一息ついたが。
「ちょっと」
　編集部の担当の人に呼び止められた。だが、もう一人誰か連れてきている。
　その人に渡された名刺の会社に見覚えがあった。
「ああ、こないだのコラボ企画の……」
　その有名コスメブランドは雑誌とのコラボ企画で新商品を出すとのことで、専属モデルの水樹も当然その撮影に参加していた。
　その記事は４月号に乗っているはず。
「ええ、その記事の反応が予想外によくて」
「そうなんですか！　ありがとうございます」
「社内でも水樹さんをイメージキャラにと声が上がりまして。そこで、正式に起用させていただきたいのです」
「えっ……」
　コスメのイメージキャラともなると、読者モデルとは天と地の違いだ。
　雑誌の購読者よりずっとたくさんの人の目に触れるだろうし、ギャラだって……
（うそ……バイトのつもりが……どうしてこうなった？）
　信じられない展開に、嬉しいより先に戸惑いが先にたつ水樹だった。
（まだ引退、できないよね、これは……）
　これからのことはわからないけど、それだけは確かだと思う。
　

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