あの日のあとで｜リアクション

あの日のあとで

　早朝の空気は、しんと冷たく澄んでいる。けれど。
　ランニングに励みながらも、風雲児轟の胸の底には重たいものが溜まっていた。
　ランニングがてら、考えを纏められればと思っていた轟だったのだが――、
（……ダメだ。まとまるどころか色んな考えが浮かんできやがる）
　轟が、『ザ・ストレイト』の姿で関わりを持ったある一件から、数日。
　時間が流れても心が晴れることはなく、もやもやは募るばかりだった。
　ランニング中の、ふっ、ふっ、と規則正しい呼吸の中に、細い息が混じる。
（あの事件の事は、悔やんでも悔やみきれなかったからな……）
　己らが信じる正義の名の元に、春を買う大人達へ制裁という名の暴力を振るう少年少女。
　彼らが行ったことは間違いだと、轟は固く思っている。
　例え、誰が何と言おうと、である。
　どんな仕打ちを受けて、どれほど辛い気持ちになろうとも。
（それを『正義』と冠した暴力で晴らす事は、許される事じゃない）
　その考えは、あれから数日が経った今でも変わらない。揺らがない。
　けれど――信念は決して捩じ曲がらずとも、あの日の出来事は、轟の心を曇らせるに足るもので。
　あれより先、轟がずっと悔やんでいるのは。
（暴走した思いを、行動を、きちんと受け止められなかった……）
　今でも、目の奥に焼き付いたように鮮明に思い出せるあの日の情景。
　あの時あの場所で、轟は一つの勘違いから来る発言をした。
　彼らが被害者の財布を抜き取るのを、金銭を奪っているのだと誤解した末のことだ。
　しかし実際は、彼らは、彼ら曰くの『汚い大人』の金を欲してはいなかった。
　財布がなくなっていたのは、被害者からの報復を防ぐ為――。
　ボタンの掛け違いは、少年少女達からの思わぬ反論を生み、轟から暫し言葉を奪った。
（あの子達の訴えにすぐ答えられていれば――）
　それで何かが変わった、とは限らない。
　あの状況下では何を答えても止められなかったかもしれないと、轟自身が思っている。
（だけど、俺がもっとしっかりしていれば、もっとキチンと説得できたはずだ）
　――少しでも、あの子達を思い止まらせる事ができたかもしれないんだ。
　轟は、ままならぬ現実を前に口の中をぎゅうと噛み締めた。
　血の味が、じわり、広がる。
（結局は実力行使をしたけど、これからもそのままじゃダメだ）
　きっとこの先でだって、あの時と同じような状況に出くわすこともあるだろう。
　その時こそ、止めなくてはいけない。そう、改めて思う。
　あの時以上に、しっかり考え。
　あの時以上に、向き合い。
　あの時以上に、言葉を尽くして。
（――だって、俺はこの島のローカルヒーローを目指す男）
　プロのスーツアクターになり、寝子島のローカルヒーローとして故郷を盛り上げるのが轟の夢だ。
　自身が正義を名乗る。そのことをも、良しとはしない轟だけれど。
　しかし、それでも、だからこそ。
　この島のローカルヒーローを、真摯に目指す者として。