ご奉仕あそばせっ！メイド様！｜リアクション

ご奉仕あそばせっ！メイド様！

☆ねこのてからの偵察

　マタ大生の桧垣万里は、受け取ったチラシを手に考え込んでいた。
「シーサイドタウンにあるメイドカフェなら、ライバル店ということよね。敵情視察よ。偵察に行かなくちゃ！！」
　万里は叔父夫婦の経営するメイド喫茶『ねこのて』で店長代理を務めている。
（……なんてね。本当は私もたまにはご奉仕してもらう側になりたいなって思っただけ。うふふ）
　メイド服を着ている間は、あらゆる家事を卒なくこなすメイドの鑑だが、着ていない時はやる気スイッチが入らない万里だ。

　そんなわけで万里は、のんびりと【cat nap】を訪れた。
「お帰りなさいませ、お嬢様！」
　聞きなれた挨拶に迎えられる。
（なんだか照れるわね。いつも言っている側だから、なんだか変な感じ）
　でも嫌いじゃないわ、と万里は思う。
（それにしても、このお店のメイド服素敵だな～和洋折衷で明るく華やかで。一足早く春がきたみたい。『ねこのて』もたまにはこういう服装取り入れた方がいいかしら）
　万里のテーブルに、３人のメイドさんがやってきた。２人の名札には『一日体験中』とある。
　メイド服を着ておらずのんびりしている万里だけれど、やはりプロとして、メイドさんの様子はチェックしてしまう。
（綺麗な黒髪とメイド服がよく似合ってるわ）
　２人を連れてきた時子を見て万里は思う。
（大人びてはいるけど、なんだか初々しいところがいいわ）
　これは桜を見ての感想だ。
　そして。
「ご、ご注文は何にいたしますでしょうかっ！！」
　上ずった声を上げた由貴に万里は目を奪われた。
（可愛い～。色々と応援したくなっちゃうな）
　もはや敵情視察ではなく近所のお姉さん的感覚だ。
「メニューはこちらです」
　桜が開いたメニューを見て、万里はしばらく考えた。
「それじゃ、チェリーオムライスをください」　
　
　隣のテーブルでは、月がオムライスへのお絵かきリクエストを受けていた。
「私に任せてくれ、絵はデザイン画の延長と考えれば描けるだろうし、どんなリクエストにも応えるよ」
　客のリクエストに答え、ソースで器用にメイドさんの全身イラストを描き上げた。
「すごい……」
　これには隣で見ていた桜や由貴も感心した。
（ちょっぴりミステリアスな雰囲気が素敵。他のメイド服も似合いそうだわ）
　万里は絵にも感心しつつ、月の雰囲気に惹かれている。

　由貴がオムライスを運んできた。
「えっええとええと、お絵かきのリクエストはありますか」
　いらないって言ってくれないかな……そう願いつつ頬を真っ赤にして聞くメイド少年に、万里はにっこり微笑んだ。
「ソースでお絵かきしてくれるの？　じゃあ大きなハートをくださいな」
　緊張で涙目になりつつ、なんとか大きなハートを描いた由貴。
「ど、どうぞ」
「うふふ、メイドさんのハートいただきます」
　お姉さんの魅力たっぷりに言う万里に、由貴はますます赤くなってあわあわと逃げるように去っていった。

　美味しくいただいた後は傍を通った和穂に、
（お人形さんみたい。奥ゆかしいところがいいわ）
　と思いながら声をかける。
「すみません、せっかくだからメイドさんと記念写真も撮りたいな」
「はい、かしこまりました。どのメイドをご希望ですか」
　尋ねる和穂に笑顔で答える。
「えーと、一人なんて選べないわ。だってこんなに可愛らしいメイドさんばかりなんだもの」
　
　最初の内は客のあしらいに苦労していた桜もだんだん慣れてきて、ぎこちなさが消えた笑顔で記念撮影に応じた。
　しかし由貴は相変わらず慣れないようだ。
（は、恥ずかしすぎる、ううううううううう）
　羞恥と戦いつつ頑張って撮影に応じるのだった。

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