音色『　』色｜リアクション

音色『　』色

　寝子島高校から桜花寮へ帰る途中、二つ目の信号で足止めを食らった雨寺凛は手に息を吹きかけ暖を取っていた。

「うう、今日も寒いねぇ……寒いのは苦手なんだよね……早くこたつに入りたい…」

　白い吐息はすぐさま冷えて溶け込んでしまう。負けじと何度も息を吐くうちに、ふわりと視界の端を横切る白い結晶の姿を見つけた。風に負けてしまいそうなほど小さな結晶だ。

「わ、何これ！」

　凛は顔をあげると、そのつぶらな黒瞳を輝かせて歓喜の声を上げた。すると今度は向日葵のように細かい花弁を携えた大ぶりな雪の華が空に咲く。

「すごーい！　面白い！」

　凛の声に合わせ次々と華が咲き、凛の瞳に白い光が差し込んだ。

「だったら！」

　弾む胸のままに、凛はエイと飛び跳ねる。跳ねた瞬間には凛を追いかけるように角錐型の結晶が伸びて、足が着いた瞬間には柱をギュッと押し込めたような板状の美しい結晶が生まれた。次は拍手。鉛筆のような可愛らしい結晶ができ、クラップクラップ、何度も音を重ねると柱が立体的に組み合わさた不思議な結晶が旋回しながら空を舞った。

「綺麗……」

　まわりがひんやりとしていくのにも関わらず、胸の奥にも身体にも熱がこもっていく。その直後に信号が変わる。ところがそれを気にも留めず、凛はひと気のない裏道へ入り込んだ。

「……じゃあ、これはどうかな？」

　好奇心いっぱいの笑みを浮かべ、凛は右耳を触る。【加虐的虚偽声楽】の力でピアノ、ヴァイオリン、トライアングル……猫、犬、カラス……。様々な声を出して、雪の結晶を生み出した。

「わぁ、毎回違う結晶が出てくる！　楽しいなぁ♪」

　ふと凛は声をだすのをやめて、肩に掛けた相棒を見た。彼はケースの中に折り目正しく収まっている。

「ギターの音でもやってみようかな！」

　それはいいねと同意でもするかのような丸型の結晶が凛の眼前に現れた。

「うん、そうだね」

　言うが早いか凛は道の脇に腰掛け、ケースからギターを取り出して構えた。右手にピックを構え、ひと掻きする。生まれたての六つ子の結晶が、愉快げに弧を描いた。

「わぁ、結晶がキラキラと……素敵！」

　勢いに乗ってそのまま一曲演奏すると、凛のまわりだけ銀世界に変貌する。

「あ、このままストリートでライブといっちゃおうかな！」

　ギターの音が重なって、二重の円結晶が浮かび上がり、頷くように舞い踊った。
　

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