【卒業生を送る会】寝子晴れっ、跳躍っ、新たな一歩でにゃーっ！｜リアクション

【卒業生を送る会】寝子晴れっ、跳躍っ、新たな一歩でにゃーっ！

●Treasures of Time

　曲の調子がまた変わった。伊藤佳奈がリクエストした、某三代目怪盗アニメのテーマソングだ。
　生演奏ブースではトランペットとサックスのメンバーが、ノリノリでメロディーを奏でている。
　陽太もちょっとジャズ風味を加えながら、主旋律にピアノの音を乗せてゆく。
　市子はギターのボディでリズムを取りながら伴奏に徹している。

　英二とののこは、フリータイムのことや先輩たちのことなどをおしゃべりしながら踊った。
「初めて話した先輩がいっぱいいるけどとても楽しかった。もっと前から話しかけていたら良かったなって思うよ」
「そうだねー」
「海原先輩なんか、おちこぼれ姫がどうのこうのって……」
「おちこぼれ姫って？」
「えーと……な、なんだろう？」
　まずいことを教えてしまったかもしれない。いや、おちこぼれ姫シリーズは一応、旅行ガイドということになっているのでいいのだけれど。そんなこんなをごまかしつつ、英二とののこは楽しく健全な高校生らしいダンスを楽しんだのであった。

◇

「この曲、いいな……踊りやすそう」
　志波拓郎は、耳馴染んだ軽快な音楽に自然と体を揺らす。ワルツじゃ彼女をリードできるか不安だったが、こんな曲ならステップとか気にせずに踊れそうだ。
「さっき、送る会でランニングマンを踊ったばかりだけど……彩葉さん、一緒に踊りませんか？」
「ふふ、喜んで」
　高梨彩葉は拓郎の青年らしい手に、しとやかに己が手を乗せる。
　音楽に合わせて体を揺らせば、それだけでダンスになってくる。
「ランニングマンを踊ってるしばっちかっこよかったよ～」
「……よかった……ちょっと、恥ずかしかった、から」
　恋人たちのダンスは続く。

◇

　さて、そのころ。
　カレーが恋人の鬼河内巌にも事件が起きていた。
　
　愛する妹の鬼河内萌が男――野菜原ユウとダンスしているのを見てしまったのである。
　萌はさっきのことをけっこう根に持っていた。
　だからこれ見よがしにユウのことを兄に紹介した。
「あ、お兄ちゃん、紹介するね！　ボクの友達のユウくんだよ。一緒にお兄ちゃんを送り出すからね☆」
「なにィィ！？」
　突然のことに、巌は目を剥いた。
　ども、とユウは顎先で会釈する。はっきり言って状況を理解していない。
「なんじゃあ、そのチャラ男はあああァ！！！」
　巌はいきり立った。なにしろユウは、髪は染めているしピアスはしているしその上お調子者そうだし、硬派を地で行く巌とは、決して道が交わらなそうな男なのである。
「えー、言ったじゃない、友達だってば」
　まあ、ボクは友達の先に行けたらと思ってるケド……とかなんとかぼそぼそ口の中で付け足す萌だが、巌は聞いちゃいない。
「わいの妹にお、お、男の友達じゃとオオォォォォ！！！？？？」
　バーン！
　巌はちゃぶ台返しをした。
　まあ、ちゃぶ台はないので、実際のところは空になった寸胴鍋（二個目）をひっくり返したのであるが。
　ユウは一歩ずつ後ずさりしながら鬼の形相の兄の視界からフェードアウトしようとしたが、動じぬ萌にがしっと腕を掴まれて身動きが取れない。
（か、勘弁してくれ……！）
　ユウはこの瞬間を地獄だと思った。
　男はつらいよ、である。