魔界からの試練　――宵闇の商人キーシェイロン――｜リアクション

魔界からの試練　――宵闇の商人キーシェイロン――

　ここで風の魔導士戌貝二一と緑の魔導士黒兎都が顔を見合わせ、頷きあう。
二人はここが決め時だ、と感じたらしい。
　その笑顔の後、２人は他の冒険者にまぎれるように姿を隠したように感じられた。

　竜に拳闘士トリオと重戦士コンビが立ち向かって前線を維持し、合間に九月と楓が援護射撃を行う。そうしつつも楓は詠唱を続けていた。
　治癒士と歌楽士のサポートがなければ、竜が現れた時点で数名落ちていただろう。それほどまでに今回の戦いは逼迫していた。
　アイテムもほとんど尽きている。修は懐を探り、のこったスクロールを見て使いどころを考えていた。
（あの魔法、もうちょっと待機すればよかったかなぁ）
　
　前線では相変わらず璃音たちが拳や足で攻撃し、タイミングよく刀と梢がカバーリングする。
（ちょっとキツいかなー）
　璃音が苦笑して少し下がると夏朝がすかさず治癒を施してくれる。それに礼を述べて戻ろうとしたとき、彼女は目を丸くした。というのも、彼女の視界に自分が見えたからだ。だが、彼女は戦闘開始前のことをおもいだし、くすっ、と笑った。
（なるほど、これはいい手だよね）

　地表すれすれへと降りた宵闇の竜は、アオザイをまとった乙女に釘付けとなった。自分を苛んだ拳闘士の乙女だ。彼女はすぐに落とさなくてはならない。宵闇の竜は食らおうと牙をむく。
　だが、次の瞬間、彼女の周囲から風が巻き起こり、同時に植物の種が一気に芽吹いて舞い散った。その正体は姿を変える事が出来るスキル『ミミックウインク』で璃音に変化していた二一だったのだ。
「さぁ、そこまでだ……キーシェイロン！」
　びしっ、と決めた二一が暴風をまとい、都が芽吹かせた茨と共に竜巻となってキーシェイロンへと突撃した！
　茨のつるが竜を苛み、風を利用して二一が最大出力の蹴りを放つ。竜は痛みに体をよじらせ、二一を弾き飛ばす。
「あとは、お願いっ！」
　地面にたたきつけられた二一は、回復が間に合わず七色のシャボン玉となって消えた。都は、ただ黙ってうなづいた。

　だが、二一の作ったチャンスは、確実に形となっていく。
　都が二一の起こした風に乗せて舞い上げた茨が、刃となって竜を切りつけ、衝撃を受けて弾けた棘が竜の傷を抉る。さらに、そこへ茨が入り込み、体力と魔力を吸い上げて都の体に取り込まれる。
（うちはその魔力を）
　ちらり、と竜をもう一度見やり、都は意識を集中する。
（こうつかうっ！）
　めきめきと音を立てて組みあがる茨の壁が、竜の進路を阻害する。炎によって焼かれようとも、都は何度も壁を生み出して足止めを続けた。

「最後の切り札っていうのは、ホントぎりぎりまで持っておくことですよ」

　梢はそう不敵に言い放つとおもむろに己の魔剣で自分の心臓を突き刺した。同時にダメージが回復し、ステータスが上昇していく。だが、徐々にHPが勢いを増して減少し続ける。『パラダイスロスト』は重戦士専用のある意味博打的なパッシブスキルである。
　梢は瞬時に『闇の鎖』を呼び出し、自分とキーシェイロンを固定する。攻撃を魔剣の攻撃で往なし、炎を剣の一振りで掻き消す彼女は、はっきり叫んだ。
「今のうちに戦局、立て直して下さいよ！」
「わーかってるっ！」
　円がダイスを勢いよく放り投げる。でたのは６の目が２つ。同時に羅針盤上にいた冒険者達全員のHPとMPが回復していく。
「時間稼ぎに、付き合ってやるよ！」
　楓が雷属性魔法のスクロールを紐解き、発動させる。同時に土の魔法をキーシェイロンへと向けた。砂鉄が、竜の体にまとわりつく。鱗と鱗の間に艶やかな砂鉄の黒が、まるで大きな亡者の手のように竜を地面に押し付けた。
　その正体は、雷属性スクロールによって地面に流し込まれた電磁波と、砂鉄の引力で引っ張り合い。局地的に重力がかかり、グラビディプレスと化したのだ。
（流石に、動きが鈍くなるだけだろうが……）