魔界からの試練　――宵闇の商人キーシェイロン――｜リアクション

魔界からの試練　――宵闇の商人キーシェイロン――

　視線の先では、キーシェイロンが咆哮を上げ、炎を撒き散らしつつも動きがとれず身悶えている。確かに、彼1人の術では動きを鈍らせるだけで精一杯だっただろう。だが、梢の放ったスキル『闇の鎖』によってヘイトを固定され、鎖で繋がれた竜を、重力の見えざる手によって更に押さえつけることは容易かった。
　その上で左右がにっこり笑った。
「！　上下なにやってるんだ！」
「出来るかは不明ですけど、ちょっと面白いことをして見ましょうかと」
　動きは奪われていても炎は吐ける。そんな状況で左右はにっこりわらって神楽鈴を鳴らす。と、宵闇の竜は攻撃を一瞬やめたのだ。

　――いい子ですね。

　同時に放たれる水属性の攻撃魔法。スクロールを発動させたのだ。顔面に食らう激流に、竜は息ができない。
（うわっ、実に悪い笑顔してるなー……）
　左右の表情を見てしまった都は、逼迫した状態なのにちょっとだけそんなことを思って顔が引きつった。
　手に持っていた最後のMPポーションを呷った夏朝は、ここぞとばかりに銀猫を放ち、BS【火傷】を治療するがMP回復ポーションがない今、あと１、２回銀猫を放ったら倒れるだろう、と考える。だが、円が元気な笑みを見せる。
「だーいじょーぶっ！」
　再び回るダイス。同時に輝く羅盤フィールド。夏朝は足元から力がみなぎり、MPが回復するのを感じていた。
「MP回復はどうにかするから、ばんばんやっちゃってーっ！！」
　そういう円ではあったが、実はHPの方につけが回っている。それを顔に出さず、彼女はにっこりわらった。

（＞＜）ノ＜おーっ！

　きぐるみさんは衛の肩をたたき、演奏を続けるようにと促す。２人はにぎやかにドラムとタンバリンで士気と攻撃力をあげ、それに左右も加わって回復力を向上させる。
「ついでにばりばりっとしびれてしまえっ！」
　衛はするり、とスクロールを広げて発動させる。雷の魔法が竜を貫き、悶絶させた。

　だが、竜だってだまっていない。それらを全て振り払い、体を大きくうねらせる。余波を食らった楓がどうにか壁を作るも砕かれ、突き飛ばされてしまう。その他にも避けられなった九月や都、七緒、亮がその衝撃で七色のシャボン玉となって消えていた。
（もうすこしだというのに……）
　鎖で竜と自分を結んでいた梢は、竜に振り回されながら意識が遠のくのを感じていた。そのまま自分は消える。そう思ったとき、力強い声が聞こえた。

「ここまでだっ！」

　刀が、ぼろぼろになりながらも剣を振るう。そして、碧南もまた進路を妨げる。

「ここが、勝負の付け所なんだから！」

　碧南の一撃が、竜の眉間にある逆鱗に触れる。キーシェイロンは体を硬直させたかと思うと……思いっきりのけぞった。
「もう一撃っ！」
　止めとばかりに碧南は拳を振るう！

　しーん、と静まり返る空間。
　だが、空気が振るえ、竜が咆哮を上げる。けれども、身体はばたり、と音を立てて地面へと倒れ……やがて、金色の光を放ちながら一人の魔公爵へと姿を変えた。

　――いやぁ、みなさんお強いですねぇ。
　　　うぅ、借金が増えてしまいましたよ……。

　キーシェイロンはそんな事を言いながらしょんぼりとした顔になる。だが、次の瞬間にはにこやかなスマイルで佇んでいた。

　――しかし、勝負は勝負です。
　　　みなさんには参りました。

　キーシェイロンはそういうと、またどこかで、と優雅に一礼し姿をくらます。
一同はようやく、キーシェイロンに勝ったという実感をこめて歓声を上げたのだった。

（ふぅ、結構きっつきつだったなぁ）
　そんな事を内心で呟きつつぎりぎりというところで立っていた円だが、ここで彼女のダイスを見た衛の指摘が入る。
「それ……どうみてもグラサイじゃ……」
「あばーっ！？」
　その瞬間、戦闘が終わったのにもかかわらず円が何故か吹っ飛んだ。風水士を初めとするネタビルドは、いかさまがばれると吹っ飛ぶ。そのお約束がここで発動した瞬間だった。
「……戦闘中じゃなくて、よかったな……」
　ふっとんだ円を受け止めた刀は、やれやれという顔でうなづいた。

このページにイラストを設定する