フォンデュパーティ！｜リアクション

フォンデュパーティ！

●初めての星ヶ丘寮
　
「ここが星ヶ丘寮……大きいなぁ……！」
　恵御納夏朝は、エントランスで思わず立ち止まってしまった。
　４月に入学して以来桜花寮に住み、猫鳴館にも行ったりしたが。
（……星ヶ丘寮は、来るの初めてかも）
　深呼吸して、フロントマンに声をかける。
「あの、星ヶ丘寮でフォンデュパーティやるって聞いて……」
「ようこそいらっしゃいました。どうぞ、こちらの者がご案内いたします」
　恭しく礼をしたフロントマンは、メイドさんに案内を引き継いだ。

「ありがとう」
　部屋にたどりついた夏朝は、入り口の隅にある募金箱を見やる。
「参加費はなしで募金箱にお金を入れればいいんだっけ？　何円入れたら良いかな……」
　ちょっと考えて、夏朝はお金を取り出した。
（とりあえず「にゃんこ」って事で２５００円いれておこう）
　ちゃりーん。
　普通の高校生である夏朝にとってはけっこう思い切った金額だ。
（出費は痛いけど、これで材料費等の足しになれば……！）
　部屋に入ると、まず茶色の泉が目に入った。
「チョコレートの噴水……大きい……！」　
　そこへ、白衣姿の旅鴉月詠が声をかけてきた。
「あ、恵御納だ。うゑるかむ」　
「こんにちは……」
「ぱーてーと聞いてアトリエから出てきた。参加すれば自炊しなくていいのでな」　
「自炊、してるの……？」
　そもそも自炊する必要はないのだが、月詠は趣味で自炊をしている。
「うちのメイドが駆り出されているのもある。個人所有の使用人だとしてもここでは星ヶ丘寮のスタッフだからね」
「そうなんだ……」
　スタッフ制は、寮外の人にとってはなかなか不思議なシステムだろう。
「自活できないお坊ちゃまお嬢様ちゃまはぱーてーに出てくるしかないわけ。ほーむぱーてーながら参加者が多いのはこの為だな。適当に楽しんでいくといいよ」
「ど、どうも……」
　ちなみにドレスコードがない、という理由での白衣姿だが、飾るのが適当だという感じなら月詠はスーツを着ただろう。
　そういう性分なのだ。
「さて何から食べる？」　　
「あ、僕はチョコフォンデュから……」
「私はチーズフォンデュだな。それじゃ、また」
　月詠はチーズフォンデュのほうへ向かっていった。
　もっと話していたい気はしたけれど、せっかく新しい知り合いを作るチャンスでもあるし。
　まずは鼻を刺激するチョコの香りを、味覚でも味わってみたかった。

「チョコフォンデュ、初めてかも……」
　夏朝は、いちごをフォークに刺し、チョコの噴水に付けた。
「いただきます……」
　もぐもぐと食べる。
「……おいしい！」
　次はバナナ……と、噴水に向かおうとした夏朝は、胸下あたりまでの緩くウェーヴのかかった少し緑がかった黒髪、どこか翡翠を思わせる色合いの瞳を持つ、ゴシックを着た少女、葉月を見つけた。
（綺麗な人……芸術科って感じだな）
　どこか作りものめいた、ミステリアスな可憐さと物憂げでアンニュイな表情が印象的だ。
　声をかけてみようかと近づくと、チョコフォンデュの泉のあたりでざわめきが聞こえた。
「……なんだろう？」
「何かしらね？」
　少女も反応してくれた。
　見れば、学ランの青年がスタッフともめているようだ。

このページにイラストを設定する