寝子島、アクアアルタの日｜リアクション

寝子島、アクアアルタの日

　寝子島の景色を一変させたアクアアルタ。
　そんな寝子島を飛び出した人物がいた。

「すっごい波ー！　ヒュー♪」
　入江みつびはいつものように寝子島の海でサーフィンに興じていた。
　アクアアルタの影響で普段より確実に海面が上昇している。
（街中の幻想的な風景もいいけど、海の波もすごいわよね）
　みつびはみつびなりに、思い切りアクアアルタを楽しんでいた。

　―――ザッパーン！
　思いの外大きい波が来て、みつびはバランスを崩し海に投げ出される。それでも笑顔でぷはっと海面から顔を出した時、みつびの視線がある場所で止まった。
（あ、この穴ぼこっていつも見えてたあれかー）
　そこは海沿いの崖にぼこりと開いている洞窟だった。いつもサーフィンをしながら気になっていたが、崖の途中にあったため、レンジャーのように上から降りないと到底行けないなと思っていたのだ。
　それが今日は海面が上昇したせいだろう、近くに入り口が見える。
（アクアアルタ万歳！）
　ウキウキしながらみつびはその洞窟に入ってみる事にした。

　サーフィンがまさかの洞窟探検。みつびは怖れもせずどんどん先に進んでいく。
　と、洞窟が急に下がって海水が行く手を阻んでいる場所にみつびは突き当たった。それでもみつびはふふんと得意げに笑う。
（こんなのキュートな寝子島人魚みつびちゃんには何でもない関門よ）
　そう、みつびはろっこん＜寝子島マーメイド＞を持っている。朝もしっかりかまぼこを食べてきたみつびは軽やかにろっこんを発動し、水の中に入っていった。

　海水で満たされたそこは、鍾乳石が垂れ下がる静かで幻想的な空間だった。
（ここは普段は水来てないみたいね）
　穴の幅は狭かったが、みつびは慌てる事なくゆったりと泳いでいく。そして誰も見た事がないであろう風景を十分に堪能した。勿論鍾乳石を折らないようにと気をつけながら。こんな素敵な場所は、大事に残しておかないとね。
　水中カメラでも持ってくればよかったと思いながらも、みつびは優雅に鍾乳洞を通り抜け、せり上がった洞窟に沿ってまた地上に顔を出した。

「お、明るい？」
　いきなり広がった大きなホールのような空間に、陸に上がったみつびの顔が輝いた。
　天井からは日の光が差し込み、何本もの筋となって辺りを明るく照らしている。そしてみつびの声は柔らかなエコーがかかり、洞窟に広がっていった。
（あーあ、ギター持ってきたらよかったな－。こんなとこで歌えたら最高だよねー）
　ここはまさに天然のコンサートホールだ。みつびはちょっと考えていたが、んんっと咳払いすると、１人アカペラで高らかに歌い出した。
　自然のスポットライトを浴びながらの、神秘的な洞窟でのソロコンサート。
　みつびは思う存分その歌声を、洞窟いっぱいに響き渡らせるのだった。

　みつびのコンサートが終わる頃、洞窟探検も終わりを告げる。洞窟内の水が少しずつ引いてきたのだ。という事は外の海水面が下がってき始めたという事。帰れなくなってしまう前にみつびは戻る事にした。
　最後にみつびはきょろきょろと辺りを見回した。
（なにか記念になりそうなものでも落ちてないかしら？）
　今度はいつ来られるか分からない。せっかくだから何か持ち帰られるといいんだけど。
　と、洞窟内を探していたみつびの足が止まった。拾い上げたのはギターのピックになりそうな貝殻。
「あ、コレ素敵んぐ～♪」
　みつびはきゅっと貝殻を握り締めると、元来た道を戻り始めた。

（お土産見つかってよかったー）
　にこにこしながらまた鍾乳洞を泳ぎ進むみつび。
　でも本当に素敵なお土産は、みつびの心の中の想い出なのかもしれない。

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