人生の分かれ道！　滑らないで！｜リアクション

人生の分かれ道！　滑らないで！

☆原付免許試験

　日暮ねむるは、眠そうな顔で原付免許の試験にやってきた。
　原付――原動機付自転車の試験は、16歳以上で受験することができる。
　１０月生まれのねむるは、免許を取得してツーリングに行った、という同級生たちの話を羨ましく聞きながら、この日を待ちに待っていたのだ。
　その中の一人は、ねむるに忠告してくれた。
「試験は大変だぞ、覚悟しておけよ。合格率は６割切ってるらしいぜ」
　それを聞いて、一発合格したいとしっかり勉強してきたねむるである。
　が、会場の入り口まで来て絶句した。
　
　そこはまるでスケートリンクだった。
　試験を受ける教室までの道のりが凍りつき、その上にバナナが大量に撒かれている。
　まるで地雷源のように。
　ありえない光景だったが、ねむるは納得してしまった。
（咄嗟のハプニングに対応し事故を防げるだけの判断力を試してるんだね。つまり……試験はもう、始まってるって事だね）
　いや、いくらなんでもそんなことはないのだが――
　滑って転んで戦意喪失して帰る者も続出する中、ねむるは眼前の障害に果敢にアタックした。
　ツーッ。
　スライディングを繰り返しながら方向を調整し、氷とバナナの上を滑り込む。
「よし、あと少しだ！」
　試験開始時刻ギリギリでなんとか教室に到着できた。
　
　試験会場は半分ほどしか埋まっていなかった。
（覚悟はしてたけど、何て恐ろしい試験なんだ。原付免許の学科試験てやつは）
　試験会場に来るまでに振るい落とされてしまうのか。ねむるは思った。
（けど、席に座ればこっちのもんさ。ありとあらゆる道路標識を徹夜で頭に叩き込んだ。だから絶対にイケる、寝落ちなければ）
　眠そうな顔はいつものことだったが、こう見えても努力家のねむるである。
　今回は本当に徹夜で頑張ったのだ。絶対合格できるはず。
　だが直後、その考えは甘かったことに気づくはめになる。　
　筆記試験が始まってすぐ、ねむるは異変に気づいた。
（くそ、床が滑って足の踏ん張りが効かない）
　回答を記入しようとすると自然と足に力が入る。
　なのに床がツルツル滑るから、今にも椅子から転げ落ちそうで解答に集中できないのだ。
　他の受験生たちの足も、床でツルツルと動いていた。必死に机につかまっている者もいる。
（集中……？　分かったぞ。長時間二輪車でツーリングするには溢れる体力と強靭な精神力が必要不可欠。間違いない、この試験の審査基準は……）
　タフネスだ！
　そう悟ったねむるは、腹筋に力を入れ、滑らないよう両足を浮かせた。
（ボクシング部で鍛えてきた成果を生かす時だ）
　そのままの体勢で解答を埋めていく。
（耐えてくれよ、僕の腹筋。あと数問で楽にしてやるからね）
　原付免許取得はこんなにもイバラの道のりだったのか。
（絶対合格してやる。こんなのを２回体験するのはごめんだ！）
　
　苦労の甲斐あり、合格発表の時間。
「……やった、あった！」
　自分の受験番号を二度確認したねむるは、そのまま椅子にもたれ安堵の眠りについた……

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