ある天使と悪魔の脱出ゲーム｜リアクション

ある天使と悪魔の脱出ゲーム

　東条あんずは、買ったばかりの新しいゲームを遊ぶべく、楠木ゆきのといた。ゲームのタイトルは『エンジェルフォール』で、脱出ゲームだそうだ。実のところ、あんずは脱出ゲームはあまり得意ではない。だからこそ、ゆきのと一緒にやろうとしたのだ。
（って思ってたら、ここはどこ……？）
　周囲は先程までゆきのと一緒にいた場所ではなかった。まるで、ゆきのと一緒にやっていたゲームのような。
（えーっもしかして、うちたちゲームの世界に入っちゃったの！？）
「ゆきのが……あんずを連れて……クリアすればいいの？」
　隣で手を繋いだゆきのは、悪魔の姿だった。あんずは自分の格好を見る。天使のようだ。
「そうみたいだな。うちは天使で、悪魔のゆきのと一緒にクリアするんだな！」
　不思議と不安はなかった。むしろわくわくする気持ちが湧き出てくる。
「……わかった……はしゃいでないで……いくよ……あんず」
「おっけー！　すっごく楽しそう！！　ゆきのと一緒なら怖いものなんてないもんな！」

　吊り橋で、５体の天使の騎士と対峙していた。そのうち、２人の騎士がゆきのの両手を掴んで捕まってしまった。あんずと繋いでいる手が離れてしまう……その前に、あんずがゆきのの引かれている腕と服を掴みながら叫ぶ。
「ゆきのを離せーっ！」
　２体の騎士と、天使のあんず。当然力の差で引っ張られてしまう状況だが、あんずは手を離すことはなかった。引きずられつつも、ゆきのを助けようと引っ張っている。
　ゆきのはどうにか騎士の手を振りほどいて、ろっこんを発動させた。すると、２体の騎士は仲良く抱き合った。そのうちに、腕を掴んでくれていたあんずの手を引いて、脱出を図る。
　騎士はあと３体いる。３体同時に来られてしまったら、ろっこんをうまく使う機会が訪れる確証はない。
「おじさん……？　お兄さん？　……中身、分からないけど……仲良くしてて……」
　抱き合う２体の騎士と、追い掛けようとする３体の騎士から離れるよう、ゆきのはあんずの身体を支えて、翼を広げた。

「せっかく、ここまで来たのに……」
　ゆきのは、悪魔の魔力を失い、力無く地面に座り込んだ。そんな落ち込んだゆきのを見て、あんずはゆきのと繋いだ手をぎゅっと握った。どうにか元気を出してもらおうと、声を掛ける。
「がんばれ♡　がんばれ♡」
　これはゆきのの家で読んだ漫画にあったセリフだ。他にも、ゆきのが読む漫画のセリフをいくつか口にする。と、ゆきのの表情が固まった。
「元気出たな？」
「……あんずは……いつも、馬鹿だね」
　怒られたが、ゆきののやる気は復活したようだ。そんな様子を見て、嬉しくなる。
「勝手に読んでごめん～！」
　あんずはゆきのに素直に謝った。が、たぶん元の世界に帰ったら忘れるだろう。

　一生懸命あんずに励まされてゆきのとあんずは再出発した。あんずにボーイズラブの本を見られたことを知ったときは、思わずフリーズしてしまった。驚きと、最悪という気持ちが湧いた。勝手に家を漁らないでと思いもした。
　けれど、いつも明るいあんずに助けられているのは、自覚している。たとえ、素直にお礼を言うことができなくてもだ。
（元の世界に帰ったら、あんずちゃんとまた遊ぶの。家の本棚も片づけるの）
　そのためには、どうあっても門を目指さなければならない。ゆきのは隣のあんずの手をしっかり繋いで、門へと向かい歩き出した。

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