ある天使と悪魔の脱出ゲーム｜リアクション

ある天使と悪魔の脱出ゲーム

　新井すばると神野美野梨は、とある噂を調査していた。それは、『ゲームの中に入ることができる』というものだ。天使の名前は、シャーロット。そして悪魔の名前は、アイオリア。天使と悪魔は、精神的に結びついているようだ。天使と悪魔が共存できる世界があると知り、天使と悪魔は手を取って、２人で調べていた。しかし、禁忌を犯したとされ、天使のシャーロットは投獄されてしまった。悪魔のアイオリアは彼女の救出に成功した。しかし、立ち塞がるものは、容赦をしない。
「こんなゲームがあるのね。裏ステージもあるって噂なの？」
「そうみたいだね」
　すばると美野梨はゲームの内へ入った。まるで頭の中に靄がかかっているみたいだ。美野梨は手を繋いでいる相手を見る。
（この人は誰だったかしら……）
　この手のぬくもり、感触、力強さ。よく知っているはずなのに、記憶はぼんやりとしていて、思い出せない。
　そもそも天使に性別はあるのだろうか。それに、なぜ飛ぶことができないのだろう。特に何か怪我をしている様子もないようだ。囚われている理由も謎だ。
（でも、今はそれどころじゃなさそう。一緒に逃げなきゃ）

「ボクらは聖魔和合の世界への入り口を見つけた」
「そう、思い出した……私は、何かを調べていて、見つけて……」
「シャーロット、記憶が戻って来たようだね、良かった」
　姫を塔から颯爽と助け出したまでは良かった。だがしかし、ここには天界の清浄な気が流れているようだ。突然片膝をついたアイオリアに合わせて、シャーロットはしゃがみ込む。
「アイオリア？　大丈夫？」
「すまない力が入らない」
　悪魔の魔力の効果が全く無い状態なのか、アイオリアはつらそうに見えた。
（私が、守らなきゃ）
「気遣われる立場というのはあまり経験はないがいいものだね」
　シャーロットは恐る恐る翼を広げた。そして、思い切って羽ばたいてみる。風を感じて、飛ぶことができると確信する。
「行くわよ、アイオリア」
「愛を感じる……がやっこさんたちはそんな空気を読んじゃくれまい……ここから早く離れよ……」
　アイオリアをかばいながら、シャーロットは地面を蹴った。眼下に広がるのはどこまでも続く美しい世界だった。

「シャーロット助かったよ」
　ここは清浄な気が薄まった場所なのだろうか。アイオリアの魔力が元通りになった。
「目がくらみそうな滝……ここを降りるの？」
　滝の上流にある茂みに身体を隠して、シャーロットはアイオリアに聞いた。ここまで飛んできたのだから、飛べないことはない……のだが。
「翼があるとはいっても、疲れ切ってしまって」
「無茶をさせたね、すまない……いや、ありがとうだな」
　アイオリアは愛おしそうにシャーロットの頭を撫でた。
「無事で済む気がしないわ。でも、行くしかないのね」
　シャーロットは心を決めるように滝を見下ろした。
（あなたが一緒なら……）
　この先に、楽園があるのかは知らない。ただ落ちるだけかもしれない。でもこの手があることが、共に行く今が、シャーロットにとっての楽園なのだ。
「じゃ行くよ」
　アイオリアは疲れ果てたシャーロットを横に抱え、飛んだ。ライヘンバッハの滝によく似た光景が目に映る。
「ボクらの推理が正しければ目指す世界はあの滝壺の中だ」
　アイオリアの言葉に、シャーロットは黙って頷いた。
「いいかい、飛び込むよ」
　シャーロットはほんの少しだけ、アイオリアにしがみついた手に力を込めた。
「願わくはあの虹の向こうにQ.E.D.があらんことを」
　アイオリアはシャーロットと一緒に滝壺へ飛び込んだ。一瞬の浮遊感の後、２人の身体は落ちていく……。落ちながら、シャーロットは、天使であることを忘れた。

「そう、ここが聖魔和合の地、寝子島だ」
すばると美野梨は寝子島へ帰ってきていた。良き者も悪しき者も平等で、決して暮らしやすいとは言えない世界だ。しかし、それゆえに愛しい世界でもある。
（何より君がいる）
「シャーロット……いや、美野梨」
すばるは美野梨に手を差し出した。

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