カルティック・レボリューション　武装カルタバトル！｜リアクション

カルティック・レボリューション　武装カルタバトル！

カルタバトル！

　信彦と対峙する小萩は、札を包丁に変える。
「小萩の『こ』。『肯綮に当たる』。料理人・庖丁が牛の肉と骨と筋を見事に解体してみせた故事によります」
「『ほん』『じょう』そして『こ』ね……」信彦は苦笑する。「そんなに強調しなくても、レディの名前は一回で覚えられるさ」
「是非、覚えて帰ってほしいのです」さらりと笑う。「効果：相手の弱点を攻撃」
「弱点……って、うわあああああ！！」
　乱れ飛ぶ包丁が、信彦の下腹部を正確に狙いすます！
　血相を変える信彦。まさか『弱点』が解体されるわけにはいかない。

　その様子を知ってか知らずか、刀はひたすらいいなとの追いかけっこを繰り広げる。

「小萩の『は』。『伐性の斧』。呂氏春秋。女性の色香の危険さを、命を断つ斧になぞらえた言葉」
　右手に構えた札が、光を帯びて、ゆっくりと伸びていく……。
「小萩の魅力はマックス！　ゆえに、斧の殺戮力もマックスです！」
　振り向いた信彦は、電柱ほどもあるトマホークに驚愕する。
　すべての女性、どの子も最高に魅力的。
　だが、魅力が攻撃力に変わるとすれば、話は別だ。
「うわああああああ！」

　威力もさることながら、小萩の故事成語のチョイスには、彼女独特の感性が見えた。
　追えど去らぬ煩悩を、いとわしい狗に例えた、人間の心の影。
　己を惑わす女の色香を、斧に見立てずにおれない、男性の業の深さ。
　一太刀で肉と骨を分かつ、熟練の料理人のテクニックへの憧憬。
　明るいもの、暗いもの、どれも人の心が本性を見せる瞬間であり、人の世の花。
　
　芸術家の目で世界を見る、小萩の独自のセンス。

　そしてそれを受けるのは、若いながらも遊びに通じ、人の心を知り抜いた、洒脱な遊び人、信彦。

　数奇者同士の、味わいのあるカルタ合戦。

　だが、そうも言ってはいられない。
　刀は龍を急激に旋回、信彦の元へ馳せる。
　――やはり、小萩を止めなくては！

　急加速で戦線を離脱し、札を全力でキャスト。

『ふとんがふっとんだー！』

　もはや諺でも何でもない。
　さっきのイザナミとイザナギはどこに消えたのか。
　緻密さと大胆さ、作りこみと投げやりが同居する、刀の微妙な内面世界。

　何もかもを眠らせるおふとぅーんが、小萩めがけて放り投げられる。
　が、それは力を失って落下。
「レッドカード！」
　花札の「萩に短冊」。

「ふふー、いつからこの戦いが、カルタだって錯覚していましたか？」
　
　何……だと……とつぶやいたのは、刀と信彦の人の好さだろう。
　作業に熱中すると眠らず没頭してしまう小萩、布団の耐性はある。

　―ーならばっ！

　反撃の信彦が放ったのは『死中に活』。
　当然、素直な発動はしない。

「シチューにカツなんて、贅沢な話ですね！」

　突如出現する、デミグラスソースに香ばしい金色の衣のカツ。
　洋食という言葉がぴったり。銀座の通人のような、遊び慣れた男女にふさわしい味。
　睡眠欲と、満腹中枢を同時に刺激された小萩、さすがに戦意喪失。おふとぅーんに頭から墜落する。