寮生の日常　～桜～｜リアクション

寮生の日常　～桜～

暑い日は

男子寮。
霧谷朧と蜂須賀ルドの部屋――。
コンビニ帰りの朧が前髪をあげながら、服の胸元をパタパタとさせる。ルドにただいまと言って扇風機のスイッチを入れた。外では着ぐるみを被っている同居人も夏の室内の暑さには勝てない。さすがに素顔を晒していた。
「あー……あっちぃ……。ちょっと外出ただけでこの暑さとか……」
朧はどさっとあぐらをかくと、涼しい風を顔に受けながらあ”～と声を出した。喉を軽く叩いて宇宙人ボイスも忘れずにつくる。
「俺だってあつくてあつくてしにそーだぜー、なんとかしろよおぼろー！」
「えー。今、帰って来たばっかりなのにー……」
朧は同居人のリクエストにのんびりとした様子で応えたが、立ち上がる様子はない。本当はルドも扇風機の風が欲しいが、外から帰ってきた朧に風をゆずってやった。
しかし、暑い。
「あ。そういえばサンマさんの形したかき氷機があったよにゃー」
「この前セールで買ったやつ？　いいねー」
「おう。それそれ、だぜ」
ルドが額の汗をぬぐいながらごそごそとかき氷機を探し出した。艶やかなサンマさんが印象的なかき氷機だ。
「あった。すごく……生臭いかき氷ができそう……だぜ」
「探索お疲れー。ちょうど氷、大量に作っておいてあるし。シロップはー親が送ってきてくれたのがあるんだけどさー。ルド、梅だいじょぶ？」
「おう！　大好きだよにゃー」
そーか。と朧が小さく笑った。
ルドがかき氷機を冷蔵庫に運ぶと、朧が作り置きの氷をざらざらと機械に入れた。削るのはルドの仕事である。朧が他に使えそうなシロップがないか探している間に、一心不乱にハンドルを回した。
「うおーだぜ！」
左手で上からがっちりとかき氷機を固定し、右手は残像しか残らない勢いだ。
「ルドー。もう30ケイデンスを上げろー」
「ガリガリだぜー！！」
「ルド、氷もれてる」
「……おう。回しすぎて余計暑くなっちまったぜ……。疲れたぜ……後は頼んだぜおぼろー」
「ほいきたー」
充電が切れて倒れたルドの氷を朧が引き継ぐ。
実家特製の梅シロップを惜しげなく氷にかけた。部屋に爽やかな梅の香が広がる。スプーンを添えると、ばててるルドの目の前に置いてやった。
「復活……だぜ！」
面倒くさいので冷蔵庫の傍で座って食べることにする。
「家で漬けたやつでさーめっちゃうまいんよー♪」
「はー。生きかえる……だぜ……」
しばらくふたりして、氷の冷たさと梅の甘さを楽しんだ。ルドは器をほほに当てて、冷たさを楽しんだりもする。
「炭酸とかで割ってもいいんだけどやっぱかき氷にかけるのが一番でさー」
スプーンを加えながら朧が話す。少し懐かしい響きが声に交じっていた。
「うまいにゃー。お礼言っといて、だぜ」
「おーけー。かき氷、ジュースの原液にあずきもいいな。ルドは何が好き？」
「俺はメロンがすきだぜー」
「買い置き探してみるかー」
台所にはかき氷機を買った時の買い置きが残っていた。メロンとイチゴのシロップ、あずき缶、練乳、ほか。それらを自由に混ぜる。
「おうおう、スイカ味作ったぜ」
「イチゴとメロン混ぜてスイカ？　うまそうじゃん、一口もーら……」
「つめてーぜうめーぜ……！　おぼろも食べるんだぜー！」
ルドのミックススイカ味氷の乗ったスプーンが朧の口に突っ込まれる。２割くらいが朧の服にこぼれた。
「ぐヴぉあ」
「にゃー」
「にゃーじゃねーよー。あー、黒い服だから別にいいけど口つっこむなし！　こぼれるし！」
「それはそれで冷たくていいよにゃー後で風呂入ればいいしよ、だぜ」
「やべ、急に食べ過ぎてキーンってなった！　俺のもやるから口あけろしー」
素直に口を大きく開けるルド。朧は右手のスプーンをルドの口元に近づけるが、寸前で右手を引っ込め左手に持っていた氷をルドの背中に入れてやった。
「にゃー！？　にゃにすんだおぼろー！！」
「はは」
「返ししてやんよだぜ……！」
「うわ。ちょ、やめ。やめろってー」
両手に氷を握りしめたルドが悪い笑みをうかびながらじりじりと朧ににじりよる。台所は溶けた氷でびちょびちょだ。先ほどより余計汗をかいた気もする。
でも、楽しいから、いいよにゃ。
朧に返り討ちのデコピンを受けながらルドはニヘラと笑った。

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あとがき

担当マスター：相馬円
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寮生活、いいですね。憧れのひとつです。
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