冬の日。新たな始まり｜リアクション

冬の日。新たな始まり

＜３年３組＞

　ＨＲの時間。担任の川村絵美子が必須事項の伝達を終え、今度は高校受験について話し始めるのを、水上桜は真剣に聞いていた。

　寝子高芸術科ＯＧの絵美子が元バンギャルというのは有名な話だ。だから音楽の先生になったのかは分からないが、軽音部の顧問でもある。
　絵美子の話が最近の寝子高受験の傾向や難易度の事になり、前からプリントが配られてきた。ここ５年の程のデータがわかりやすくまとめられている。
　ありがたいなと桜は思う。見た目はバンギャル上がりと言う事でどことなく取っつきにくい印象の絵美子だが、実はこのように生徒のために色々と骨を折ってくれる先生で、決して厄介事から逃げない人だったりするのだ。

　その絵美子に、今日渡さなければいけない物が、桜のカバンにあった。
　手先が器用でアクセサリー作りが趣味の桜。軽音部のメンバーのアクセが足りないとぼやいていた彼女のために、冬休みを利用してシルバーアクセなどを数点作ってきたのである。

　独特の雰囲気があるが、よく見れば結構な美人である絵美子。綺麗な髪をさらりと耳にかけた時、彼女の細い腕に着けられたブレスレットがシャラシャラと音を立てた。
　その内の天然石をあしらった物は、実は桜が以前作った物だ。他の生徒に頼まれてブレスレットを作ったのだが、そのうちの１つを絵美子がとても気に入ってくれたので、彼女にプレゼントしたのだ。
　桜がじっと絵美子の手元を見ていると、目が合った。フッと笑う仕草に女性だとわかっていながらも何だかドキリとする。

（……このアクセサリーも喜んでもらえるといいな）
　そっと自分のカバンに目をやる桜だった。