シャンシャンシャンのその前に｜リアクション

シャンシャンシャンのその前に

「テオ君、また遊ぼうね」
　去り際に声を掛ける綾花に、テオは背を向けて、黙って尻尾を振った。

　丁寧にラッピングしたお土産を抱え、武道も店を出ていく。

　飾りつけを袋一杯購入した荒太郎、プレゼントを一つ小脇に抱える。
　彼の思い人のための、スペシャルなプレゼント。
　――中身は？
　周囲からの声に、「秘密です！」と答える。

（ほんとに、おとぎの国にきたみたい）
　ほんのり顔を赤らめた様子のミルカに、ドキドキしながら、丸美も店を出る。
　小脇に抱えられたトナカイ。
　彼女がそれを買うという決断をしたことが、ちょっとだけいろんなことをいい方向にむけた。

「手伝い、楽しかったぜ」
　そうミルカに言い残して去る、朱蘭。
　前後に体を揺らす。あのまま行き倒れになったりしないか、それが不安だ。

　Joulupukkiから出た真央は、身をすくめた。
　店の中は暖かだったが、外に一歩でると、冷気が身を切るようだ。
　真鍮のノブが、吸い付くように冷たい。手袋を忘れていたことに気づく。
　頬が冷たく、耳たぶも冷たいのに、躰の中はジンと温かく、何か感覚がぶれてしまったようだ。
　そんな真央に、修が缶飲料を渡す。
　手袋を外して、両の手で覆うと、痛いくらいに熱い。
　耳たぶと、頭の芯のあたりが熱くなって、ふわふわする。
「カイロみたいだろ、心も躰も温まる」修が優しく笑う。
「……冒険」
「ん？」
「冒険、また一緒に冒険しようなのだ」
　真央の申し出に、修は頷く。
「行こう。冒険も、冬のレジャーも全部だ」
「約束なのだ」
「ああ、約束だ」
　すっと差し出される缶に、手の中の物を突き出す。
　二人の缶が、夜の底でぶつかりあった。
「約束の印だ」

「それはそれとして、修ちゃん」
「何だ」
「クリスマスプレゼントで……可愛い猫グッズが欲しいのだ♪」
「いつもどおりの、真央だな」
　二人の笑い声が、夜道に響いていった。

　――今日、友人から、一番大事なものをもらった。

　――さっき出されたケーキ、あれは、きっと忘れられない味。
　
　友人や、修に感じる、喜ばしく頼もしい、胸の内が熱いときめきで満たされるような気持ち。
　真央は、とりあえずその気持ちに『友情』という名前を付けておいた。

　本当はなんて呼ぶのかわからないが、それが今は一番いい答えのような気がした。

「はつなちゃん、すごい荷物……少し持とっか？」
　雅人の申し出に、「平気へいき～！」と答えるはつな。
「そう？　大丈夫ならいいけど」
「何だかね、サンタさんになった気分！」
　そういって、はつなは買い物袋から、サンタ帽を取り出す。
　白、黒の無彩色の世界に、赤い色が一つ灯る。
「似合うかな～？」　
　スノウ・フェアリィのように、くるりとまわる彼女に、雅人は笑顔を見せた。
「うん、すっごく似合うよ！」本心からの言葉。
　

「千鳥くん、今日はありがと！
　学校で見かけたら、話しかけても……いい？」
　もう友達だよ、と笑おうとして、雅人は真面目になる。これは、彼女にとって大切なことだ。
　緊張しないように、笑顔を作る。
　いつもの雅人の、やわらかな笑顔だ。
「学校でも、よろしく」えへへ、と照れ笑い。「同じクラスに、なれるといいね！」

　――わあ、嬉しい！
　
　ぱっ！
　はつなの笑顔と一緒に、純白のろっこんの花が舞い散った。
　冷たく、かぐわしい、フリージアの香りが二人を包んだ。

「この島には、おかしなことばかり起こる……」
　つぶやいてテオ、雪の街に繰り出していく。

　ひらひら散る花びらが、そのまま夜に溶けて、雪になった。
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