シャンシャンシャンのその前に｜リアクション

シャンシャンシャンのその前に

　ドアに「CLOSED」の文字が掛けられた。
　硬く張りつめた、漆黒の夜。
　星は出ていない。おそらく夜半過ぎには、雪がちらつくのだろう。
　片づけをすませたミルカに、テオは紙の束を渡す。
　サンタポストの『お願い』である。
　一応ポストの中を確認した朱蘭が、ミルカにＯＫサインを送る。
　和穂と夏朝が、ミルカに頷く。
　ずしりと重そうな紙の束を、ミルカは頬を紅潮させて眺める。
　中身は見ない。大事な預かりもの。
「皆のお願いが、叶いますように……」
　つぶやいて、大事に封をする。

「よっしゃ！　我慢してた分、飲むぜ飲むぜ飲むぜ！」
　ばん！　と景気よく扉を開けて出てきたのは、すでに赤ら顔の朱蘭。
　サンタの服装をだらりと肩出しで花魁風に引っ掛け、ふわふわと千鳥足である。
　先ほどまでの、隙を見せぬ店員姿は、どこかに吹き飛んでしまったようだ。
「ミルカも一緒に飲もうぜ！」
「はい！」
　仕事に一区切りついたミルカ、笑顔で答える。
「最後まで手伝って下さって、有難うございました！」
　朱蘭の前にとててっと駆け寄り、頭を下げる。
「せっかくなので、晩御飯をご一緒にいかがですか？　……宴会？　なのかわかりませんけど」
「おう！　ミルカも一緒に飲もうぜ！」
　ろっこん水を掲げる朱蘭。普段、小さい子にろっこん水を振舞うのは避けているのだが、仕事の心地よい疲労と、仕事終わりの高揚で、飲む気分になっている。
　ミルカも笑って了解する。北欧では寒さから身を守るため、子供にもはちみつ入りのエールを振舞うことがある。
　なんとなく帰りそびれた客たちも、それぞれコンビニなどで食料を調達し、ささやかな酒宴が催される。
　簡素で、大げさではないが、心のこもった食事会。
　にぎやかな大騒ぎの前の、静かなサパーである。

　いつにもまして豪快な朱蘭は除いて、だが。