シャンシャンシャンのその前に｜リアクション

シャンシャンシャンのその前に

「ミルカ―、遊びに来たぜ！　って、あれ？　忙しい？」
　ドアを開けた酒浸朱蘭が目の当たりにしたのは、人ごみでごった返す店内だった。
「こんにちはー！」
　お客さんの応対をしつつ、朱蘭に挨拶するミルカ・アハティアラ。

　クリスマスムード一色の寝子島。
　巨大なクリスマスツリーを飾ったり、パーティーの算段を立てたり、みな準備に余念がない。
　クリスマスに関する神魂事件も多発しており、聖夜に向けて、皆のテンションが上がっていた。

　ここ「Joulupukki」は、クリスマスグッズを専門に扱う専門店だ。
　ドアを開くと、大ツリーが目を引く。
　なかなか日本では手に入れにくい、本場フィンランドのグッズも手に入るとあって、クリスマスファンたちにはよく知られている。
　かといって敷居が高いわけではなく、暖かな店内の雰囲気に引かれた一見のお客様も、気おくれなく買い物ができる。
　この時期は確かに込み合うものの、雑貨売り場のような人出はない。

　はず、だったのだが……。

「ミルカ、一人か？」
「ちょっと、おじいさんが席を外していて……」
　普段はだらしない祖父だが、クリスマスが近くなると妙にそわそわして、出かけることが多くなる。
　今日も、ちょっと店を見ておいてくれと言い残して、そのまま出て行ってしまった。
　
　先日一緒にクリスマスツリーを飾った朱蘭、店内の様子を見渡す。
　と。

「おっ」
「よう」
　玄関先で蹲っているのは、我らがテオドロス・バルツァ。
　なぜか、トナカイの格好をして、無愛想に寝転がっている。
「この島では、おかしなことばかり起こりやがる……」
　店内の喧騒はどこへやら、尻尾をパタパタ振って、朱蘭を見遣る。
「客で来たのか？」
「ああ。……でも忙しそうだな」
　ぐるりとあたりを見渡し、朱蘭は目を輝かせる。

「よっし、あたしが一肌脱ぐぞ！」

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