ブラックサンタウォーズ｜リアクション

ブラックサンタウォーズ

【天動記士郎の場合】

　天動記士郎も、テオの声を聞き、サンタのもとへやってきていた。

（ぬいぐるみ好きの子供の気持ちを利用して、悪さを働くような輩は許せませんね）

　そして、いちはやくサンタを見つけた記士郎は、物陰から様子を探っていたが、また一人犠牲者が増えそうになったことで、慌てて場に割って入ることにした。

「おや、サンタさんですか。ずいぶんと変わったぬいぐるみをお持ちのようですねぇ」

　穏やかな表情を崩さぬまま、さも今見つけたような顔をして、記士郎は少年――サキリ・デイジーカッターとサンタの間に割りこむ。

「…………？」

　サンタが怪訝そうな表情を記士郎に向ける。

「ああ、これは失礼。私は旧市街の方でしがない雑貨屋を営んでおります、天動と申します。是非、そのぬいぐるみをウチでも取り扱いたいなぁと――」

　と、そこで記士郎は言葉を止める。
　穏やかに細められていた彼の目が少し見開かれる。
　見てしまったのだ。
　サンタの手にする袋から覗く『まきまきうんち』の姿を。

（……あれに変身させられるのは避けたいところですねぇ）

　しかし、どうしてこうアレは人の心を惹きつけてやまないのか。
　記士郎は妙にアレが気になった。
　もちろん変身させられるのはまっぴらごめんではあるのだが。

「横入りは感心しないな。このサンタさんには僕が先に話かけたんだ。後にしてもらえないかな？」

　と、そこでサキリの声が記士郎の意識を現実に呼び戻す。

「ふふ、安心したまえ。プレゼントの受け渡しは一瞬で済む。――ほら、こんなふうにね」

　次の瞬間、サンタは柴犬のぬいぐるみをサキリの身体に押しつけていた。

「……っ！？」

　わずかな不意を突かれたサキリを白い光が包む。
　どこから取り出したものか、サキリはそのときすでに一本のナイフを手にしていて、それが白い光が弾けると同時に甲高い音を立てて地面に落ちる。
　一瞬後、サキリはもう柴犬に姿を変えられてしまっていた。

（これは……！）

　記士郎は、目を見開いた。
　サキリはもはや完全な犬になっていて、無邪気にその場を走りまわっている。
　記士郎はしばし呆然とするほかない。
　そんな彼を見て、サンタは一瞬だけその衣装を黒光りさせ、

「次は君の番だ」

　と、『まきまきうんち』を手にしながら言った。

「……それにだけは、ご遠慮願いたいところですねぇ」

　わずかな苦笑を口元に滲ませ、記士郎は戦闘態勢に入った。