＜月華＞トワイライト・スターダスト　～甘い星は島を蝕む～｜リアクション

＜月華＞トワイライト・スターダスト　～甘い星は島を蝕む～

いつか視た夢、かつて在った悲劇

「瓶が！　瓶が流れてしまうよぃ！」
　瓢が声を出し、瓶を追いかけようとした途端、全員が動けるようになっていた。
「今よ！」
　感情の本流から解放された紫の言葉に夏朝が瞬時に反応し、瓶へとねこシールを飛ばす。
（重くなれ！）
　めいっぱいの力をかけて落とそうとするも、不思議な力でもって反発してくる。蛇那伊は小さく笑って瓶へと突撃した。
「壊すんでしょ？」
「その方が良いんだけど、壊したくないって人もいるかもね。ま、状況にあわせてってトコかしら？」
　同じように向かう紫の言葉に、蛇那伊が笑う。２人は瓶へと手を伸ばそうとした。
　だが、それに星華が気づく。
「！　させないわっ！」
　少女は瞬時に手を伸ばす。同時に蛇那伊と紫は腕を伸ばしたまま動く事が出来なくなっていた。周囲の空気が2人をそこに固定しているかのような感覚。落ちることも無く、かと言って流される事もなく。身動きできず紫は焦る。
（こういうのは予想していなかったわね）
　蛇那伊が内心で舌打ちする。だが、紫は歯を食いしばって手を伸ばそうと試みる。
「大切な物を傷つけられる痛み、弄られる悔しさを、教えたいの……っ！」
「させないっ！」
　僅かに手が動き、紫の指が瓶に触れそうになった時、より強い重力が紫を下へと叩き落す。羽根をもがれた鳥のように落ちていく紫の姿に瓢が息を飲む。このままだと彼に激突するのだ。
「ぼーっとしてないで！」
　理紗は瓢の背中を叩くと、虚空を蹴り紫へと手を伸ばす。瓢も慌てて手を伸ばして受け止めようとする。
　その間も蛇那伊がどうにか動こうとし、亮と円が追いかける。夏朝はろっこんを使い、どうにか落とそうと試み続ける。その間に星華は、瓶を取り戻そうとしたが優斗と刀が立ちふさがる。
「どいてっ！」
　戦扇が一閃し、２人が弾き飛ばされる。美咲紀は２人を助けるべく追いかけ、修は埒が明かない、と瓶の『分解』を試みたが、咄嗟に別の事を試みた。パチンコとドロップを手にし、狙いを済ませる。
（入ってくれっ！）
　星華が修の行動に気づいたとき、音も無くドロップが口の中に。それを飲み込んだ星華から放たれていた力が急に消えた。
「……っ、失敗ですわ。私自身に精神的作用がないものを作ったはずなのに……」
　下を見れば、理沙たちによって助けられた紫が礼を述べている。刀と優斗もまた美咲紀に助けられていた。
（誰も見ていないよぃ！）
　どうにか周囲が安堵している中、瓢は降って来た瓶を手にし、懐に仕舞おうとした。誰も気づかない様子に瓢の目元が楽しげに細められる。
　だが、気づいていた者はいた。蛇那伊である。彼は背後からその手を押さえてニッコリ笑う。
「ふふ、そうは行かないわよ」
「ちょっ？！」
　蛇那伊は瓶を奪うとドロップをざらり、と掌に零し、一気に瓢の口へと押し込んだ。

　蛇那伊によってたくさんのドロップを口に入れられた瓢は、一瞬頭が痛くなった。同時に、脳裏を過ぎったのは、寝台に横たわる星華らしき少女の姿。
『お兄様、どうして……』
『星華、あたしたちは兄妹だよ。……結ばれるわけにはいかんのさね。それに、あたしには、将来を約束した相手がいる』
　少女に対し、悲しげに言ったのは星華同様虎の耳と尻尾を持つ若者。どことなく見た目は己に似ているような気がしたが、それは意識の外に投げやる。
　涙を流しすがる星華の頭を撫で、兄は謝る。だが、星華はぎゅっ、と兄の服を握り締め、悲しげに見上げた。
　――私は知っています。この命が長くない事を……。
　同時に、辺りが暗くなる。その暗闇の中から幾つ物眼差しを覚え――蒼い双眸が、途方もない冷たさと悲しみを訴える。そこで瓢の意識は暗転した。

「あら？　あたしとしたことが口に入れすぎちゃったかしら……？」
　蛇那伊が応急処置をしようとしたとき、瓢は我に帰る。ドロップはどうにか全て咀嚼したものの、瓶は既に回収された後だった。

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