【お三夜】猫と人、二つの世界が交わる夜｜リアクション

【お三夜】猫と人、二つの世界が交わる夜

●エピローグ２：一夜明けて

　翌早朝。
　御鏡聖はいつものように霧がかる時刻に起き、いつものように朝のお参りをし、いつものように竹箒を持って神社の境内を掃除をする。
　見上げれば本日は快晴。
　澄んだ朝の青さのなかに、ひとすじ白く飛行機雲がたなびいている。
「お三夜様、一之助さん、二右衛門さんおはようございます。昨日はありがとうございました、今日もいい天気ですね」
　もちろん返事は返ってこない。
　それでも夕べの彼らの姿が瞼の裏に蘇ると、聖は話しかけずにはいられない。そうして話しかけ、布で拭き清めてみれば、狛猫たちはうっすら微笑んでいるようにも見える。
「おや、お口に焼き芋が。ふふ、綺麗にしておきますね」
　するとそこに、やはり竹箒を手にした巫女服姿の水鳥茉希乃がやってきた。
「おはようございます。同じ神職のよしみでお掃除のお手伝いに参りましたよ」
「まあ……助かります。ありがとうございます」
　ふたりは和やかに夕べのことなどを話しながら、参道を端から掃き清めた。
　祭りのなごりはまだ残っている。灰色猫のテオが屋根の上で欠伸をしている。
　露天商たちが露店を完全に撤収しにやってくるのは、もうすこしあとのことだろう。

　九杜アメは、夕べの出来事が忘れられずに朝早くから神社を訪れてしまった者のひとりだった。
　夕べ買った運命万華鏡をのぞいてみる。
　覗き穴の向こうはきらきらと赤や青に移り変わって、ふつうの万華鏡と同じように美しいけれど、もう運命を見ることはできない。猫の露店で手に入れた玩具や変わった品々も、ほとんどが不思議な魔力を失って、ただのガラクタに成り果てていた。
　それでも――ただその記憶をもう一度辿りたくて、早朝にも関わらず神社に足を向けてしまった。
　手に猫のパペットを嵌めた少女と行き交う。恵御納夏朝である。
「クローネもお祭りが羨ましいなら……混ざって、壊さず、楽しめばよかったのに。ねえ、ハルくん？」
　そうパペットに話しかけた少女の制服姿が、一瞬、祭りの最中のような猫耳をつけた赤い括り袴に白い水干姿とだぶって見えた。

　アメは驚いて目を擦った。
　彼女の姿も然ることながら、足元をするり、妙に影の濃い猫がすり抜けて行ったように見えたからだ。
「……黒猫？　でも目が真っ赤だったな」
　瞬きすると少女はふつうの制服姿に戻っていた。
　黒猫の姿もどこにもなかった。
　なので疲れていて白昼夢でも見たのだろうと、このときはあまり気に留めなかったのだが。
　寝子島神社で目の赤い黒猫といえば「お三夜大明神」であることを、のちに彼女は知ることになる。

＜了＞

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あとがき

担当マスター：笈地行
ファンレターはマスターページから！

皆様ご参加ありがとうございます。
リアルの季節もら！の季節もすっかり冬になりましたが
ここに秋の最後をお届けいたします。

今回は複数の方から、鳥のお祭りもやったらいいんじゃない、みたいなご提案もいただきまして……
わたくし、なるほどーねーと目からウロコでした。
寝子島といえば猫というイメージでしたが、そう言えばその次くらいに鳥さんって人気ありますよね。

あと今回前向きに一歩踏み出された方は、頑張っちゃえよＹＯＵ！　みたいな気持ちです。

それではみなさまの思い出に残ることを祈りつつ……よいお年を！

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