【お三夜】にゃんと奉納猫レース！｜リアクション

【お三夜】にゃんと奉納猫レース！

　刀は、ボン太と普通に会話ができたことに驚いていました。
　お三夜祭りは猫が関わっている祭りと聞いてはいたけれど、まさか自分が猫になるとは思わなかったのです。
　しかし、始まった以上は、やるしかありません。
「立派な魚をゲットして、寝子島神社へ奉納すればいいんだな？　やってやるさ！」
　普通ではないけど、神魂の仕業とは別のナニカを感じたのでしょうか、今回はこの流れに乗ってみることにしたようです。
「狙うは当然一位！」
　奉納する魚を手に入れるため、たくさんの猫が漁港に向かう中、刀も軽快に走っていきます。

　どしん。

　慣れない猫の姿だからか、のんびり歩いてる猫にぶつかってしまいました。
「ご、ごめん。」
　倒れたのは、薄茶色の毛が長い、上品な雰囲気の猫でした。
「大丈夫よ、怪我はないわ」
「汚れてなければいいんだけど」
「気にしないで。このくらい、ぺろぺろっとしておけば大丈夫」
　この猫も普段は人間ですが、どうやら猫になるのが初めてではないようで、猫としての年季が違いました。
　自分の体を確かめるように、足の肉球をぽふぽふと壁にあてたり顔にあてたり。
　ぽふぽふぽふ。
　その様子を見て安心した刀は「じゃあ、悪いけど一位狙ってるから、お先に！」と駆け出します。
　すると薄茶色のこの猫も同時に駆け出しました。
　勝負事は、やるからには負けない！
　目つきが変わって走り出した、その猫は、十朱此方でした。

　此方は漁港の外れまでやってくると、さっそくやさしそうな漁師のもとに駆けていきます。
　じーっ。
　そこにいた漁師のおっさん、犬田犬吉の目を見て、訴えます。
　にゃーっ。
　犬吉に声をかけて、訴えます。
　犬吉は「なんだあ？　猫かよ……」と、あまり猫好きではない様子ですが、「でもかわいいな」と言って手を伸ばすと、此方の額を慣れない手つきで乱暴に撫でてきます。
　一瞬躊躇う此方ですが、お魚をもらうからには甘んじて受け入れなくてはいけません。
　なでなでされながら、さらにかわいくにゃーんと一言。
　犬吉は「かわいいやつだな。ほらよ」と小さな魚を一匹くれました。
　これでよし！　魚をくわえると、尻尾を犬吉にすすり。感謝の気持ちです。

　その様子をじっと見ていたのは刀でした。
　あの猫、やるなあ……。
　負けじと犬吉の近くに行って、同じようにじーっと見たりにゃーっと鳴いたりしてみますが……いかんせん目つきの悪い黒猫は、猫ツウにしか相手にされません。
　犬吉はプイッと仕事に戻ってしまいました。
「ふふ、お先に」
　此方は刀に声をかけると、いざ、神社に向けて出発。
「くっそう……」
　目つきの悪い黒猫の刀が鼻息荒く首をかいている近くで、同じ黒猫でもスラッとした凜々しい雰囲気の天満七星が、犬吉に近づきます。
　にゃあん。
　かわいく鳴いてみせる七星に、
「黒猫は無理だと思うぜ」
　と呟く刀。
　しかし、犬吉は面食いでした。
　「お、この猫はキレイだな」などと言って、魚をポイッと投げてやりました。
「なにっ？」
　愕然とする刀をよそに、七星が投げられた魚に駆け寄ります。
　しかし、転がる魚を見て、しばし動きが止まりました。
（生魚を、しかも洗いもせず、くわえるのですね……）
　元々人間なのですから、そこで躊躇うのは当然でしょう。
　ピチャピチャッと撥ねる魚を見れば見るほど、悩ましいものです。
　でも、目つきの悪い黒猫に奪われるわけにもいきません。
　魚を見つめながら、自分に何度も言い聞かせます。
（大丈夫です。今は、私は、猫なのですから！）

　パクッ。

　何かを乗り越えた七星は、魚をくわえててくてくと歩き始めました。
　大丈夫、その姿はとても美しく、板に付いてますよ。

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