「あれ?」
頭のてっぺんで大きく結ったお団子が揺れる。
曽祖父から貰ったレトロなフィルム式の二眼レフカメラのファインダーを上から覗き込んでいた、榛色の大きな瞳が前を向く。
「あれぇ?」
秀でた額を覆う黒髪がもう一度揺れる。
きょとんと丸くなる瞳に映るのは、緑あふれる植物園。見上げれば、十一月の鮮やかな秋空を覆い隠して、椰子の葉や眼にも綾なハイビスカスやブーゲンビリア。足元をちくちく刺すのは、羊歯の葉っぱ。椰子の幹の影から顔を覗かせて、朱と青紫が鮮やかな極楽鳥花。
カメラをお守りのように胸に抱いて、
椎名 あさひは後ずさる。
こつん。靴底がふわふわの腐葉土でない何かを踏んだ。視線落として見たのは、黄色い煉瓦の道。
星ヶ丘に最近出来た小さな植物園内の、小さな小さな温室にお邪魔していたはずだった。入り口寄りの隅にある小さなカフェの店員さんに、写真を撮らせてもらってもいいかきちんと許可を得て、あったかい温室で色鮮やかな花や濃い緑の葉っぱや、最奥に続く黄色い煉瓦の道や、ところどころに隠れている案山子やライオンや子犬やロボットの置物をフィルムに収めていた、それだけだった。
なのに、ふと気付けば、
「あれれー?」
見回しても見回しても、温室の壁が見えない。さっきまで視界の端に見えていた出入り口近くの茉莉花のアーチも、薄紅の蓮がたくさん浮かんでいた蓮池も、カフェやカフェに居た人々も、みんなみんな、植物に呑み込まれて見えなくなってしまった。
「……あさひ、まいごになっちゃったかなぁ?」
不安を口に出してしまって、
泣き出しそうになるのをぐっと堪える。ぐっと。ぐーっと。
「ごはんまでに帰らなきゃ」
カメラをぎゅっと抱きしめて、泣き出しそうに震える唇を噛む。そうしないと、両親にも三歳の弟にも、みんなに心配を掛けてしまう。
「でも、どうしてかなぁ」
さっきのさっきまでは、普通の温室だったのに。
「もう、こまったなぁ」
目の前には、果てもなく、どこまでもどこまでも、迷路のように南国の植物群が広がっている。出口がどこかも分からないけれど、きっとじっとしていてもどこにも行けない。
お家に帰るため、あさひは勇気を出して一歩踏み出す。
「あ、きれいなお花ー」
こんにちは。
今日は、小さな温室での、なんでもない一日をお届けにあがりました。
星ヶ丘に最近出来た、割合新しめの小さな植物園内にある、小さな小さな温室での一日です。入り口には店員がひとりだけの小さなカフェがあります。
ガイドには椎名 あさひさんにご登場頂きました。ありがとうございました。
ガイドはサンプルのようなものですので、もしもご参加いただけます場合は、ご自由にアクションをかけてください。
カフェでのみ、のんびりとフツウに過ごすことができます。花のにおいや緑を楽しみながらのんびりのんびり、です。
初めて出会ったひとや親しいひとと交友を深めるのもいいかもしれません。
カフェを離れて温室内を歩くと、神魂の影響を受けます。ゆーっくり巡っても五分もかからず一周出来る温室のはずが、緑の迷路のようにだだっ広くなります。
危険はありません。二時間も迷えばカフェ付近の蓮池に出ることが出来ます。
もう少し早く出る方法は、ふたつあります。
どちらもそんなに難しい方法ではありません。温室を迷いながら、のんびり探してみるのも楽しいかもしれません。
そんな感じでのんびりのんびり、です。
ご参加、お待ちしております。